株式会社ガイアックス

2017年2月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

「人と人をつなげる」を実現するためにビル1棟をリノベーションした

1999年の創業以来、企業理念「Empowering the people to connect(人と人をつなげる)」を掲げ、ソーシャルメディアの構築・運営などを主業務として事業を拡大してきた株式会社ガイアックス。2017年1月末、積極的な人材採用もあり、本社を千代田区平河町のオフィスビルへ移転した。今回の取材では、同社が考える新たなオフィス像についてお話を伺った。

プロジェクト担当

佐別当 隆志氏

株式会社ガイアックス
ブランド推進室
佐別当 隆志氏

Natalia Davydova氏

株式会社ガイアックス
ブランディング
ディレクター
Natalia Davydova氏

5階ワークスペース

5階ワークスペース

はやわかりメモ

  1. ミッションである「人と人をつなげる」を実現させるために
  2. 全員が納得するような "丸い" ものでなく "尖った" ものでもいいと考えた
  3. 厳しい時間との戦いの中で、費用とデザインを見直した
  4. ガイアックスのシェアリングが体現できる共有コミュニティ「永田町グリッド」
  5. 働き方だけでなく、地域や人々との関わり方も変えていく場所となる

ミッションである「人と人をつなげる」を実現させるために

前回、2014年10月に行った株式会社ガイアックスへの取材記事では、同社の主な事業内容として「ソーシャルメディアの構築・運営・モニタリング」と紹介している。その後、2年半の間にグループ会社との提携もあわせて多くの新規事業が発足。今まで培ってきた事業を基盤にし、新たな分野への展開を見せている。ただし創業時からのミッションである「人と人をつなげる」は今も変わることはない。ちなみにそのミッションは、社名の起源でもあるガイア理論「地球は一つの生命体」という考え方から生まれたという。

「3年ほど前からソーシャルメディアだけでなく、コミュニティ運営やスペースの提供といったシェアリングサービス事業に移行しつつあります。2015年11月には、シェアリングエコノミーに特化したファンドを設立し、インキュベーション事業をスタート。国内外のシェアリングエコノミー企業への出資も積極的に行ってきました。2016年1月には、一般社団法人シェアリングエコノミー協会という業界団体を立ち上げ、情報発信をするとともに、社内には事務局を設置しています」(佐別当 隆志 氏)

同社代表執行役社長(兼取締役)上田祐司氏は、シェアリングエコノミー協会の代表理事でもある。インキュベーション事業に関しては、まだグループ内での売上としては大きくはないものの、投資家や起業家からの反響は増えてきているという。既存事業の規模拡大に加えて、こうしたさまざまな新規事業を立ち上げたことによって、同社に関わりを持つ人たちの数は飛躍的に増大。本社オフィスを構えていた品川区西五反田のビルのキャパシティを大幅にオーバーするようになっていた。

「前回、西五反田のオフィスビルにグループ会社含めて統合したのは2009年4月。その後も多くの社員が入社しました。当時はまだ同ビル内に空フロアがありましたので、オフィスが手狭になるたびにフロア増床で対応していました。実は、2014年に大幅な増床計画を行ったのですが、その当時から将来的なキャパシティを確保できる物件探しを根気よく続けていました」(佐別当氏)

のちにオフィス移転が正式に決定すると、佐別当氏はプロジェクトチームのリーダーを務めることになる。そして、佐別当氏の下でブランディング ディレクターとして実際のオフィスのブランドデザインを担当したのがNatalia Davydova氏である。

「私は創業翌年の2000年に入社しました。ガイアックスが初めての就職先なので、他の会社と比較することはできませんが、とても自由な社風で、いろいろなことを自分で決めて任せてもらえる職場であると思っています。今回のプロジェクトでもかなり思いのままやらせていただきました」(Natalia Davydova氏)

同社のコアバリューの一つである「フリー・フラット・オープン」は、「メンバー全員が経営層や事業責任者と同じ情報を持つことで、自分自身で判断し、行動する権限が与えられています。ゴールに向かって一人ひとりが同じ方向を向き、動くことのできる強い組織を目指します」と宣言されている。Natalia氏の言葉は、それがお題目だけでは終わらず、実際にルールとして機能していることの証明といえる。

全員が納得するような "丸い" ものでなく"尖った" ものでもいいと考えた

西五反田の旧本社オフィスは、JR山手線の五反田駅と大崎駅のちょうど中間あたりに位置していた。都営地下鉄浅草線の五反田駅と東急池上線の大崎広小路駅も利用できる満足のいく立地環境だった。

「しかし、ビル全体のキャパシティに限界がありました。それに加えて、今後の『ガイアックスらしさ』やコーポレート・ブランディングについて考えたときに、『私たちが、本当にやりたいことはこのビルでは難しいだろう』ということを強く感じていたのです」(Natalia氏)

「当初、移転先候補として我々が想定していたのは、廃校となった学校や、つぶれた倉庫などでした。つまりは、何もない大空間を持つ建物です。そうした場所に自由にオフィスをデザインしてみたい。そして多くの関連企業とシェアリングできるワークスペースをつくりたいと考えていました。つまり重要と考えていたのは空間であって立地ではなかったのです」(佐別当氏)

旧オフィスへ移転してきた8年前は、ちょうど国内出張が増えてきた時期でもあり、交通アクセスの利便性がとても重要だった。現在、同社はすでに次のステージに上がっており、立地やアクセシビリティ以上に重視する条件がほかにある、ということなのだろう。

「近年はクラウド化の発展により、オフィスであろうと、カフェであろうと、あるいは自宅であろうと、どこでも同じように働くことができるようになりました。極論すれば『はたしてオフィスは必要なのか?』という考え方になりかねません。それに対して、『オフィスに来るだけで出会いがあり、そこから新たな仕事が生まれることもある。だからこそシェアリングエコノミーの構想を実現するには具体的な場所が必要だ』というのが我々の考えです」(佐別当氏)

今回の移転計画に際して、旧オフィスの不満やオフィスに対する要望を社内アンケートなどで広く集めた。そして、それらのたくさんの声から、一つひとつを精査し、次に活かせるものをまとめたという。

「もちろん、すべての要望に応えるには限界があります。そこで旧オフィスの単なる不平不満については意見としてお聞きし、どのような機能があればどんなことが実現できるといった将来が見える課題について議論したのです。今回、『透明性のあるガラスで仕切りたい』、『キッズルームを設けてほしい』といった要望は、新オフィスで採り入れています」(Natalia氏)

もちろん「誰もが使用できる男女別の休憩室」「ICカードによる入退出管理」などの旧オフィスで導入していた環境は、新オフィスでも同様の対応を行った。そして、こうした諸々の機能を備えることができ、「永田町グリッド」が誕生したのである。

「この物件の存在を知ったのは2016年3月、正式に契約したのは8月です。4月に申し込みを行ったのですが、実はその時点では社内の合意が済んでいませんでした。少しフライング気味でしたが、それほど私の中では『即決』だったのです」(佐別当氏)

「窓の数が多くて自然採光に優れているなど、建物の形状もイメージに近いものでしたが、何よりゼロから内装をつくり込んでいけるという魅力がありました。『永田町グリッド』の構想に対しては、社内には反対意見の方もいましたが、会社としてやるべき課題と信じて進めました。予算やスケジュールの制限もあり、しかたなくあきらめざるをえなかった部分もあります。そこで、全員が納得するような "丸い" ものではなく、少し"尖った" ものでもいいと考えていました。」(Natalia氏)

厳しい時間との戦いの中で、費用とデザインを見直した

 移転先と正式に契約を交わした2016年8月から、移転完了予定日である2017年1月末まで、わずか半年足らずの時間しかない。この短期間に新たな拠点となる「永田町グリッド」のビル全体の構想を固め、内外装のデザインを決定させ、工事を完了させなければならない。

社内の移転プロジェクトチームは、リーダーの佐別当氏、ブランディング ディレクターのNatalia氏以下、総務部門やセキュリティ関係、LAN環境などのインフラ構築の担当者など総勢10名ほどの構成であった。それに不定期のメンバーとして、営業担当、イベント担当などそれぞれの責任者が参画した。「日本で一番シェアを体験できるビル」というコンセプトのもと、スケジュールを調整しながら懸命に作業を進めていたが、ここで思わぬトラブルに見舞われることになる。

「実は、4月から基本設計などを依頼していた会社があったのですが、進行の遅れに加えて、工事金額の見積り額が予想以上に膨らんでしまったのです。費用、デザインともに見直さざるをえなくなり、結果的に別のデザイン会社に依頼することになりました」(佐別当氏)

後任のデザイン会社が決定したのは9月中旬。デザイン全般を担当したNatalia氏も、かなり追い詰められた状況だった。

「前のデザイン会社との打合せの段階で基本設計はできていたのが幸いでした。細かい部分については相当やり直した部分はありましたが、無事4ヵ月弱で完成できました」(Natalia氏)

「もちろんスケジュールや費用面は厳しかったとは思うのですが、後任の会社はこちらの要望に対してのレスポンスも早く、『では、こうしましょう』『こういうやり方もありますよ』と具体的な提案までしてくれたのが印象的ですね」(Natalia氏)

ガイアックスのシェアリングが体現できる共有コミュニティ「永田町グリッド」

 こうして完成した「永田町グリッド」には、ブランディング ディレクターとしてのNatalia氏のさまざまな想いが体現されている。働く女性たちにとってベストな環境とは何かを考え、ビル内に設けられたキッズルームやキッチンなど、シェアリングエコノミーの構想を実現する場とするための工夫が随所に盛り込まれている。

「『グリッド』というネーミングや、ロゴデザインにもいろいろな意味が込められています。ON THE GRIDはインターネットでの交流、OFF THE GRIDはオフラインでの交流を意味し、『つながろう、自由になろう。』というキャッチコピーの下に、人と人が会う場所、交差する場所といった意味を持たせています。GRIDのGはガイアックスのGであり、各フロアのネームプレートやパンフレットなどに使用しているロゴは、GRIDのロゴを構成するパーツを分解して再構築したデザインになっています」(Natalia氏)

GRID全体の顔となるエントランス

GRID全体の顔となるエントランス

「永田町グリッド」は地下1階から地上6階まであり、屋上を含めた8つのフロアによって構成されている。それでは順番に見ていこう。

屋上は「CLOUD-9」。雲に一番近い場所であることから、この名前が付けられた。イベントやパーティなどに使用できる開放的な屋上スペースだ。

「現在、フリーマーケットの企画を考えています。これを機会に、地元の方などが参加できる地域コミュニティとして機能できればいいですね」(Natalia氏)

6階の「ATTiC」はフリースペースフロア。最大300名の大きなイベントを開催することが可能。そのほか、誰でも使用できる託児施設「キッズルーム」が併設されている。

「家から会社までお子様と一緒に出勤することが可能です。子育て世代にはとても意味のある施設だと思います」(Natalia氏)

5階は「MiDORi.SO」。同社も出資しているMirai Institute株式会社が運営する「ワークスペースみどり荘」の都内で3番目の拠点となる。それぞれのメンバーが「SO(荘)」の中で同じ釜の飯を食う仲間となることを目指す。フロア内には、一日あたりで貸し出すフリースペースのほか、キッチンやライブラリー、仮眠スペースも備えている。

4階の「GARAGE」はガラス張りのプロジェクトルームや会議室のスペースとなる。このフロアの一部にはグループ以外の会社もシェアオフィスとして入居している。

3階の「LABS」は、さまざまな考えを融合させて新しいサービスの創出を目的とする複数の小区画に分かれたシェアオフィスの機能とガイアックスの一部門が存在する。

「『LABS』や『GARAGE』は旧オフィスにあったコワーキングスペースを発展させたもので、『MiDORi.so』ともども外部の方々とつながる機会をつくっています」(佐別当氏)

そして2階の「BASE」がガイアックスの基地となるフロアだ。もちろん、このスペースに限ることなく、違うフロアで自由に働くことができる。多種多様な人がつながる場所で、マッサージルーム、NAP(休憩室)、PRAY(礼拝堂)、MEDITATE(瞑想部屋)なども設けられている。

「国籍・年齢・性別そのほか、誰に対してもオープンなのが「グリッド」の思想です。そのため、さまざまな宗教に対応する部屋も用意しました。そのほかにも、障碍者に対するサポート施設やジェンダーフリーのトイレも用意しています」(Natalia氏)

1階の「PLAZA」は「GRID」全体の顔となるエントランスのほかに、家庭料理を提供するカフェ「tiny peace kitchen」の機能を持つ。

「緑が基調のとてもゆったりした空間で、当社の社員が運営しています。カフェ内の壁面はレンタルスペースになっていて、展示物の設置もできます。近くで働く人や近所に住む方も、食べに来られていますね」(Natalia氏)

そして最後に地下1階。「SPACE-0」と名付けられた最大100名を収容できるフリースペース。バーカウンターも備えられており、カジュアルなイベントやパーティなどに最適となっている。

開放的な屋上スペース

開放的な屋上スペース

6階フリースペースフロア。左側がキッズルーム

6階フリースペースフロア。左側がキッズルーム

5階フロア内のキッチン

5階フロア内のキッチン

5階ライブラリー

5階ライブラリー

5階仮眠スペース

5階仮眠スペース

4階会議室スペース

4階会議室スペース

3階シェアオフィス

3階シェアオフィス

2階ガイアックスの執務フロア

2階ガイアックスの執務フロア

2階のMEDITATE(瞑想部屋)

2階のMEDITATE(瞑想部屋)

1階のカフェ「tiny peace kitchen」

1階のカフェ「tiny peace kitchen」

地下1階に設けられたイベントスペース

地下1階に設けられたイベントスペース

働き方だけでなく、地域や人々との関わり方も変えていく場所となる

2017年2月24日に開催された「永田町グリッド」のオープニングパーティには、各方面から約1700人もの来場者が詰めかける大盛況となった。セレモニーでは、Yahoo株式会社執行役員 パーソナルサービスカンパニー長 田中祐介氏、Mirai Institute代表取締役社長 黒﨑輝男氏、そして同社の上田代表の3名が挨拶し、これからの永田町、東京、そして世界はどのように変わっていくかについて熱く語ったという。

「せっかくビル1棟をリノベーションして、このような機能をつくったのですから、今後も多様なスペースを通じて、色々な方とつながっていきたいですね。このコンセプトは多くの方に受け入れられるはずです。しかし『フリー・フラット・オープン』のカルチャーは変わることなく展開していきたいと思っています」(Natalia氏)

「こうした場所ができたことで、働き方が変わるというだけでなく、会社の事業も変わり、地域との関わりも変わり、家族との関係性も変えていく。昔でいえば商店会や町内会的な役割もあります。そんなエリア全体の活性化のためにも貢献できればいいですね」(佐別当氏)