- 事業規模拡大と新卒採用開始で、移転から1年半でスペースが不足した
- デザイン会社3社でコンペを実施し、新オフィスのデザインを決定する
- 透明性とセキュリティの両立をテーマとしたゾーニングと動線の考え方
- フリーアドレスから固定席へ。変更後も変わらないダイバーシティ
- 足りないものが追加され、なくなったものはない。社員満足度の高い新オフィス
事業規模拡大と新卒採用開始で、移転から1年半足らずでスペースが不足した
独自のアルゴリズムで情報をキュレーションするサービス「グノシー」を開発した3名の大学院生が起業し、2012年11月に法人化された株式会社Gunosy。起業後、急成長を遂げ、2014年12月に六本木の大規模ビルへ本社を移転する。約270坪の面積を使用する大型オフィスであったが、想定を上回るほどの増員ペースで、移転後1年足らずの2015年9月末には早くも席が足りなくなった。そこで、次の移転先の検討にかかると同時に、オフィスデザインを担当した株式会社FLOOATに依頼して同年12月にレイアウト変更を行い、最終的に140席分を確保した。
「レイアウト変更の効果は一時的なものに過ぎませんでした。遠からず満席になることは見えていましたから、2015年10月の時点で総務部門と担当役員による移転プロジェクトをスタートさせました。当初は、移転先エリアとして六本木のほか、渋谷・恵比寿他も視野に入れていましたね」(外所 美知子氏)
短期間に大幅な増員となったのは、事業規模拡大を背景に、新卒採用を開始したことが大きい。採用対象も、技術職と総合職がほぼ半々の割合で、理系・文系ともに積極的に採用を進めている。オフィス内の余剰スペースを削ることで新入社員のためのデスクスペースを確保していったが、それにも限界が来ていた。
「もちろん、『スキップヒル』(社内のオープンスペース)を潰してデスクを並べれば、もう少し人が増えても対応できたでしょう。しかし、もともと、より良い就労環境を求めてこちらのビルに移転してきたのですから、この環境を悪くしたくないという思いがあり、移転することにしたのです」(外所氏)
移転先として何棟かの候補を挙げ、実際に内見をしながら検討していったが、その半ばで、期せずして現ビル内の別フロア階にまとまった面積の空室が出ることが明らかになった。同社はこれを好機とし、同フロアへの館内拡張移転をすることになった。
「六本木という土地に対して、必ずしもそこまで強いこだわりがあったわけではありません。しかし、前回このビルを選択した大きな理由として、『建物自体の防災性能の高さ』と『BCP関連施設の充実』ということがありました。この部分はやはり維持していきたいポイントでしたし、社員の通勤の便を考えても、まったく違うエリアへ移転するよりは同じビル内で増床したほうが負担をかけずに済む、という結論に落ち着いたのです」(外所氏)
社員の中には、通勤の便を考えて入社後に六本木周辺の赤坂や麻布十番などに引っ越す者もいたという。また、六本木の街には昼食時や退社後に立ち寄る飲食店なども多く、生活環境が充実している点も魅力であった。
デザイン会社3社でコンペを実施し、新オフィスのデザインを決定する
同ビル内で約2倍となる527坪の面積を確保した同社は、さっそく新オフィスのデザイン選定にとりかかった。これに先立ち、旧オフィスのレイアウト変更は前述のように株式会社FLOOATに発注していたが、新オフィスのデザインに関してはFLOOATを含む数社のデザイン会社でコンペを行うことになった。
「移転スケジュールについてはすでにご相談を受けていましたが、Gunosyさんは非常に決断が早かったですね。この規模の会社の移転ですと、最低でも半年、本当なら1年くらいの余裕がほしいという話をしました。その時点で私どもが受注するとは決まっていませんでしたので、可能な範囲でお手伝いさせていただくところからスタートいたしました」(山田 雅崇氏)
デザイン会社は、取引先企業からの紹介などで評判の良い会社を選定し、全部で3社がコンペに参加した。デザインに対する要望としては、原則として「壁をつくらない」「執務エリアを見渡せる」という2 点である。審査に公平を期すために、諸条件は2015年12月に一斉に開示され、2016年1月中旬にプレゼンが行われた。
その結果、旧オフィスに引き続き、FLOOAT に発注することが決定したのであった。
「もともとFLOOATさんがデザインを行った旧オフィスは社内でも評判が良かったのですが、企業としてステップアップを図り、より良い仕事環境、そして社員のために居心地の良いオフィスをつくることを目的にあえてコンペを行いました。FLOOATさんに決定した理由は、コストやデザイン自体の良さはもちろんですが、やはり当社の社風や考え方について一番よく理解して、足りなかったものを補ってくれている点が決め手でした」(外所氏)
「1月中旬のプレゼンの時点でデザインの大枠は決定していましたが、その後Gunosyさんと話し合いながら細部の調整を詰めていき、5月初頭から工事を開始しました。工期は6月末までの約2ヵ月間。タイトなスケジュールでしたが、ビルの管理会社が協力的であったこともあり、期日内に無事完了させることができました」(山田氏)
透明性とセキュリティの両立をテーマとしたゾーニングと動線の考え方
それでは具体的にオフィス内を紹介していこう。
エントランスは、日本建築をモチーフにした縦格子のモダンで落ち着きのある雰囲気だ。向かって左手に大小の会議室が並ぶエリアがある。ここは旧オフィスからの大きな変更点の一つであり、社外の方の出入りを想定したオープンエリアと、社員が働く執務エリアとを意図的に分断している。
「会社が大きくなり、出入りする人の数が増えてくると、どうしてもセキュリティへの配慮が重要になってきます。その一方で、従来の『壁をつくらず、隅々まで見通せる』というオフィス環境は維持していきたい。そこで、今回のオフィスづくりでは『透明性とセキュリティの両立』をテーマにしました」(外所氏)

エントランス

応接通路

外部エリア
「透明性という観点では、ガラスによる仕切りを多用し、できるだけ自然光を採り入れることを心がけました。会議室の廊下側の一面は曇りガラスを採用していますが、これは外から見て使用状況がわかるだけでなく、会議室内で閉塞感を感じないようにする狙いもあります。四面が壁に囲まれた会議室では、参加者が無用に緊張してしまい、言いたいことも言えなくなってしまいますから」(山田氏)
会議室数は、旧オフィスの5室から9室に増やした。そして最も使用頻度の高い6人掛けの会議室を中心に、用途別に部屋の大きさや形、テーブルの形状や配置などが違う会議室を使い分けられるようになっている。また、ビルの窓に面して大会議室を設ける一方、エリア内に設けられたセミナールームでは集中して話を聞いてもらえるようにわざと窓をなくしている。このセミナールームは、約50名を収容できる規模があり、毎月社内外のエンジニアを集めて勉強会や各種イベントが実施されているという。

応接

セミナールーム
「旧オフィス時代はホワイトボードをどんどん買い足していましたが、あまり数が増えすぎると視界を遮って社内の見通しが悪くなります。そこで、新オフィスでは壁の一面をホワイトボードとして使えるようにしました」(外所氏)
新オフィスのコンセプトは、旧オフィスから引き続き「スキップして会社に来たくなるオフィス」。その象徴ともいえる「スキップヒル」は、新オフィスでももちろん健在である。ただし、新オフィスでは社外の人間の視界には入らない位置に設置されている。ちなみに、この「見えない、見られない」ことによるセキュリティの向上は、新オフィスのさまざまな場面で応用されている。
「単に見えないようにするだけなら壁や個室をたくさんつくればいいのですが、それではオフィスの透明性が犠牲になります。そこで採り入れているのが『距離がセキュリティを担保する』という考え方。このくらい離れていればモニタの内容までは見えない、という目安で、かつ社員がストレスを感じない距離感を設定しています。『動線を通して、空間のつながりと社員のつながりをつくる』のが私どもの提案するコンセプトです」(山田氏)

ホワイトボード

スキップヒル
動線設計については、座りっぱなしで仕事をすることの多い社員たちを「半ば強制的に、オフィス内で立って歩くように仕向ける」狙いもあったという。
「例えば、自動販売機は3ヵ所に設置していますが、それぞれ商品が違います。すると、『コーヒーを飲みたければあっちの自販機』『食べ物ならこっち』と社員はオフィス内を歩き回らなければなりません。多少の不便さはありますが、気分転換や運動不足の解消にもなりますし、思いがけなかった方との接触で、新たなコミュニケーションも生まれます」(外所氏)

社内動線用通路