セキュリティゾーンを抜けてコクヨオフィスシステムのオフィスに入ると、最初にあるのが「クラブハウス」だ。ここはオフからオンへの気持ちの切り替えを行う場として、カフェとロッカールームが配置されている。
「カフェは執務エリアであるメインフィールドとは完全に切り離されており、社員やパートナーたちが自由に話をしたり、リラックスするためのスペースです。ドリンクベンダーやソファなども置き、インフォーマルなコミュニケーションを図れるようにしました」(浅賀氏)
今回のリニューアルでは、新しく生まれたスペースを目的通りに使ってもらうため、要所要所にインフォパネルが置かれているのだが、そこに書いてある言葉がおもしろい。たとえばリラクカフェの場合、
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癒 す......ココロを癒し、がんばるチカラをつくる
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発想する......リラックスしていつもと違うアイデアを生み出す
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E S 向上......社員のES(従業員満足度)向上に役立つ
と記すとともに、リニューアル前に社員に対して行ったアンケートの結果がグラフで提示されている。それによると、「リラックスできる環境のほうが良いアイデアが出る」と答えた人は全体の91.5%と圧倒的な比率だ。
「多少おせっかいかもしれませんが、この表示によって、私たちがどんな目的でこのスペースをつくったか理解してもらおうと思ったのです。そうしないと、せっかくリラックスのための場所なのに、いつの間にか会議室と同じように使われ、意味がなくなってしまう。つまりこれも、私たちから社員に投げかける波紋の一つなのです」(浅賀氏)
続くロッカールームも、ただの収納の場で終わらないような工夫がされている。
「手前のロッカーだけ背を低くし、カウンターのように使えるようにしました。横にソファを置いたことで、ここでも活発にコミュニケーションが行われるようになりましたね」(工藤氏)
また社内のニュースや様々な情報をひと目でわかるように2面モニターも置かれた。
「執務エリアに入る前に必要な情報をできるだけ得られるようにしておけば、すぐに自分の仕事を始められます。クラブハウスを出たらあとは試合をするグラウンドだと思ってもらうことで、完全に気持ちが切り替えられるはずです」(工藤氏)
仕事のスタイルによって選べる10種類以上のワークプレイス
クラブハウスを抜けると大きく広がるメインフィールドは、多様なワークスタイルを可能にした多くのスペースが用意されているが、そこに入る前にもう一つ印象的な「仕掛け」がある。それは一段高くなった通路だ。
「イメージとしては、選手が試合前にグラウンド全体を見回せるように見通しのいい場所をつくりたかったのです。メインフィールドにはさまざまな働く場があるだけに、ここを通る間に、『今日はどこで仕事をしようか?』と考えられる時間をもってもらおうと思いました」
メインフィールドの中は、顧客との打ち合わせが多く在席率が低い「ランナー」、社員との打ち合わせが多い「ウォーカー」、個人作業が多く在席率が高い「シッター」ごとにノンテリトリアル席と固定席を最適な比率で用意してあり、基本的にはどこで仕事をしても構わない。それでは、そのいくつかを紹介していこう。
Hybrid Cell
(ハイブリッドセル)

天板の軸が固定されたデスクで、位置や角度など自由にレイアウトの変更が可能。集中作業からグループワークへの切り替えを瞬時に行える。
木製大型天板デスク
(ロングテーブル)

オフィスのメインフィールドとなる営業や設計担当者の執務スペースに配置。感性を刺激する本物素材を使い、机上面のサイズにとらわれない自由なアイデアを喚起させる。
会社の目指す方向性を示すためにもオフィスは進化していく必要がある
社員専用エリアとしてつくられたクラブハウスとメインフィールド以外にも、コクヨオフィスシステムの霞が関ライブオフィスには、新しいスペースが誕生している。なかでも受付のあるレセプションエリアはかなり斬新だ。ゆったりした空間に素材感のある皮革製の白いソファや家具デザイナーの最新作が並べられ、さらに音や香りの演出により、他の企業との明確な違いを打ち出している。
「オフィスの執務スペースが会社によって100社100通りであるように、受付だってもっと個性的にし、いらっしゃったお客様が『ここはコクヨオフィスシステムなんだ』とすぐにイメージできるようにしたかったのです」(工藤氏)
ちなみに流れている音はリラクゼーション効果のある環境音(水の流れや風などによって自然空間に生まれる音)だ。また漂うのはスズランなど花の香りを調合したコクヨオフィスシステムのブランドをオリジナルで表現したのものだという。
「香りの演出については前例がないだけに、外部への影響などを心配しましたが、かすかに漂う程度なので問題はありませんでした。今では私たちも慣れ、ここに入ると自然に『会社に帰ってきた』と、ほっとするくらいです」(浅賀氏)
そのほか、レセプションエリアには接客などにも使う会議室と、ビデオを映写するシアター、そしてもう一つ「ビジネスサロン」と呼ばれる新しいコーナーが設けられた。
「ここはお客様に自由に使っていただけるスペースです。カウンターとテーブル、専用のLAN回線を用意してあり、ちょっとした仕事ができるようにしました」(工藤氏)
ビジネスサロンをつくったのは、共鳴・共感(Resonance)を社外にも広げていきたいからだという。
「会社に訪ねてこられるお客様は、私たちにとって重要なパートナーです。それだけに、打ち合わせ以外の時間でも近くにいていただければ、そこで新たなコミュニケーションが生まれ、ビジネスチャンスにつながるかもしれません」(浅賀氏)
「Resonance Field」というコンセプトに基づき新しく生まれたコクヨオフィスシステムの霞が関ライブオフィスは、次世代のワークプレイスに求められる機能を最大限に集約させた試みとして、すでに多くの企業から注目を集めている。
「まったく同じスタイルのオフィスをつくってほしいという依頼もあり、関心の高さに驚いています。そういう意味では、自分たちの目指してきた方向は間違っていないのだと確信しました」(浅賀氏)
今回のプロジェクトを、ファシリティ管理の立場で見続けてきた北氏も、完成したオフィスへの満足度は高いと言う。
「デザインなどの工夫はもとより、『こういう働き方をすべきだ』という明確な意志のもとにつくられたオフィスは、社員の意識を高める効果があると思います。その評価は、みんなの表情の明るさに表れているのではないでしょうか。つまり、オフィスはそこで働く人を変え、会社を変えていける力を持っているのです」
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