株式会社ランドスケイプ

2018年6月取材

この事例をダウンロード
バックナンバーを一括ダウンロード

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

「日本で最も非競(ひきょう)な会社」を目指す
ランドスケイプのテーマパーク型オフィス

データベースマーケティングの分野で国内最大級となる820万件の事業所データを網羅する株式会社ランドスケイプ。1990年9月に大阪で設立した同社は、1997年2月の東京移転以来、20年以上にわたって西新宿の現ビルに本社を構え続けている。企業の成長に合わせてフロア内移転や増床を重ね、近年は段階的に改装を進めている同社のオフィスに対する考えをお聞きした。

福富 七海 氏

株式会社ランドスケイプ
代表取締役社長

福富 七海 氏

千本 高史 氏

株式会社ランドスケイプ
管理本部
採用担当リーダー

千本 高史 氏

潜水艦の部屋

潜水艦の部屋

Contents

  1. 日本最大級となる事業所データベースの構築は日々の作業の積み重ね
  2. 競わず、補い合うことで新たな創造を目指す「非競」を経営方針とする
  3. 顧客の利便を優先して電話番号も変えず、改装工事は長期休暇期間に実施
  4. オフィスの目的は「変化を付ける」こと。そして柔軟にルールや制度も変えていく
  5. 日々のワクワク感を大事にするためにテーマパーク型オフィスを継続していく

1. 日本最大級となる事業所データベースの構築は日々の作業の積み重ね

B to Bデータベースマーケティングに特化したサービスを展開する株式会社ランドスケイプ。ITビジネスの黎明期であった1990年の創業時から、四半世紀以上にわたって日本全国の事業所データを集積し、データベース化を進めてきた。現在もなお、毎日更新を重ねている同社のデータベースには、820万件に及ぶ事業所データが蓄積されており、これは、国内のビジネスの拠点をほぼ網羅する数値である。文字通り、日本最大級のデータベースを保有しているといえるだろう。

「当社が長い時間をかけて構築してきた事業所データは、日々メンテナンスを行い常に最新の情報を反映させています。創業当初は紙ベースの情報源が主体でしたので、『商工会議所名鑑』などを参照しつつ、それこそ1件1件手作業で入力していくという、気の遠くなるような地道な作業の積み重ねでした」(福富 七海氏)

創業者である福富氏は、かつて、設立まもないカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC)で社長室長の要職にあり、当時の主力事業であったレンタルビデオ事業の顧客情報のデータベース化を推進してきたという経歴の持ち主である。それまで、レンタルビデオ店の会員登録といえば、手書きの用紙をまとめてファイリングしただけのものが多かったが、CCCは当時の会社規模からすれば過剰とも思えるほどの設備投資を行い、その後のTSUTAYA事業の基礎を築くことになった。

「本部と各店舗とが情報を共有し、人気のある商品の仕入れなどマーケティング戦略に活用する仕組みだったと聞いています。今でこそ、POSシステムのような仕組みは当たり前のように使われています。しかしその当時、商品単位で売り上げ集計に基づいて在庫管理や分析を行うという考えは日本では画期的だったのです」(千本 高史氏)

このときの経験が、のちに福富氏がランドスケイプを創業するきっかけとなっている。創業当時のデータベース構築の地道な手作業は、現在もデータメンテナンスにおいて続けられている。新たに法人登記された事業所は数日以内にデータベースに追加。社名変更やM&A、役員人事の交代、有価証券報告書など公開されているIR情報に変更があれば、データベース上で逐次更新していく。このために、同社の全従業員数の約3分の1を占めるメンテナンス部門のメンバーたちは、各企業および中小企業庁など監督官庁のホームページを毎日チェックしているという。

「こうしてメンテナンスされている当社のデータベースから、お客様が自社の営業戦略に必要なデータを簡単にリストアップするためのツールが『uSonar(ユーソナー)』というクラウドサービスです。これは、社内に散在し、共有できていなかった顧客データと私どもの事業所データを統合することで、今後営業先となりうる潜在顧客を把握する作業などに有効です」(千本氏)

2. 競わず、補い合うことで新たな創造を目指す「非競」を経営方針とする

「uSonar」のソナー(Sound navigation and ranging)とは音波探知機のこと。潜水艦の航行に用いられている。潜水艦が音波を発信して海水中の障害物からの回避や目標物の位置を探るのと同じように、膨大なデータの海から必要な情報を探し出すという機能から命名された。もともとは、メンテナンス用のツールとして開発チームがつくった社内システムだったが、協力会社からの評判が良かったことから商品化に踏み切ったという。

「商品化当初は、お客様からのご要望に応える形で、SFAやMA、与信管理などの機能を次々に付帯させていきました。しかし、何でもかんでもお客様の要望に応えていく行為は、大多数の顧客にとっては必要のない複雑で過大な機能を盛り込んでしまうことになりかねません。そんなジレンマに陥り、2015年から戦略を転換し、『非競(ひきょう)』という経営方針を掲げました」(福富氏)

早稲田大学ビジネススクールの山田英夫教授の著書『競争しない競争戦略』によれば、「非競争とはパートナー企業とお互いの優れた部分を生かし、補い合うことで、両社が新たな創造を目指すという共創の精神である」とある。同社はこの考えに基づき、かつての競争相手をビジネスパートナーに変え、日本で最も非競争を掲げた会社を目指すという。

「自社の得意領域である820万件の事業所データの網羅性に特化して、近接分野は他の強みのある会社に任せるべきだと考えたのです。例えば、SFA、MA、与信、BI など専門的な機能を求めるお客様があれば、かつての競争相手の中からそれらを得意とする最適な会社をご紹介すればいい。ランドスケイプという社名は創業期に『自分は主役でも脇役でも舞台装置でもない。しかし、観客からいつも観られている背景になりたい』という思いから命名したのですが、『非競』も、この社名の精神につながるものだと思っています」(福富氏)

3. 顧客の利便を優先して電話番号も変えず、改修工事は長期休暇期間に実施

大阪で創業したランドスケイプが東京へ本社を移転したのは1997年2月のことである。現本社が入居する西新宿のビルは同年1月に竣工したばかり。まさに西新宿の新時代を象徴するシンボリックタワーであった。以来、20年以上にわたって同社は同ビルの同一フロアに本社を構え続けているが、オフィス自体はその間、幾度かの変遷を経てきている。

「最初の入居時に、かなり厳しい入居審査がありました。何しろ、竣工当時はトレンディドラマの撮影場所として頻繁に使われていた話題の新築ビル。入居を希望する企業も多く、競争率も非常に高くなっていたのです。一方、当社はまだまだ無名の存在であり、データベースマーケティングというビジネスモデルもほとんど認知されていませんでした」(千本氏)

入居直後の5年間は、現在とはフロアの反対面に位置していたが、今の場所に入居していたテナントが退去したのを機に、240坪の専有面積はそのままにフロア内移転を実施する。その後、さらに空室となった120坪分のスペースを新たに借り増しして、現在はワンフロアの約3分の2に当たる360坪を同社が使用している。

「このビルを選んだのは、もともと西新宿の別のビルに東京支社を構えていたので、電話番号を変えたくなかったという理由があります。ところが、いざ契約した後で、このビル自体に決められたエリアコードがあることがわかりました。そこで、移転前と同じ番号をそのまま使えるように、粘り強く交渉しました。当時、東京支社ではすでに多くの顧客を抱えていたため、ここで電話番号が変わるとこはお客様に対して不親切だと思ったのです。かなりの苦労を伴ったものの、交渉の甲斐あって以前と同じ番号の使用が認められ、現在も同ビル内で同社のみ、旧来の電話番号を使用しています」(千本氏)

それから20年以上、同社が本社移転を行っていないのも、この電話番号を変えたくないということが最大の理由となっている。

技術の革新に伴う変化がめまぐるしい現代社会において、「20年以上も同じビルに入居し続け、電話番号も変えていない」という点だけを捉えれば、同社はまるで変化を好まない保守的な体質の会社のように映るかもしれない。だが、事実はまったく異なる。それは同社のオフィスを見れば一目瞭然だ。

「業務内容自体も、この20年間でかなり変化しました。当初は、ダイレクトメールのデザインから印刷・封入・発送までワンストップで受注するDM事業や、テレマーケティング事業などかなり手広く行っていました。しかし現在ではデータベースマーケティング一本に特化しています。これに伴い、オフィス構成も大幅に見直されています」(千本氏)

同社のオフィスは、もともと日本企業に多く見られた島型対向型のレイアウトではなく、パーティションを用いた個室単位に区切ったレイアウトを採用していた。過去、大阪本社が先進的なオフィスとして雑誌で紹介されたこともあるという。

そんなDNAを持つ同社がエリアごとに順次改装を施していった結果、現在ではテーマパークを思わせる変化に富んだオフィスレイアウトが出来上がった。

オフィスの改装工事は、お客様に迷惑がかからないように必ず会社の長期休暇の時期に実施しているという。具体的には、年末年始、GW休暇、夏期休暇であり、日数は最長で9日間。この短期間で一気に改装工事を行うことになる。

「最初の大規模改装は、2012年の夏に実施した『ラスベガスの部屋』でした。このときは実験的に内装のテイストを変えてみた程度で、工期は3日間ほどで完了しています。これが社員にも好評だったので、これ以降、小さい部屋から順番に長期休暇のたびに改装するようになりました」(千本氏)

ラスベガスの部屋

ラスベガスの部屋

ビーチの部屋

ビーチの部屋

恐竜の部屋

恐竜の部屋

廃墟の部屋

廃墟の部屋

ジャングルの部屋

ジャングルの部屋

4. オフィスの目的は「変化を付ける」こと。そして柔軟にルールや制度も変えていく

同社ではその後、「ビーチの部屋」「恐竜の部屋」「廃墟の部屋」「ジャングルの部屋」等々、さまざまなテーマを決めて各部屋の改装工事を進めていく。テーマの選定には社員から意見が出ることもあるという。

「例えば、『武道の部屋』という意見がありましたが、いざデザインを描いてもらうと想像よりも地味だったため採用しませんでした。ただ、このときの『木造の風合いを活かした部屋』というアイデアは、後に『忍者の部屋』という形で実現しています」(千本氏)

もっとも広い「ローマの部屋」は2016年の夏期休暇時に大改装が行われたが、このときは9日間の日程をまるまる使っての大工事となった。

「代表によれば、オフィスの目的は『変化を付ける』ことにあります。環境が変われば、そこで働く社員の気分も変わり、新鮮な発想も生まれやすくなります。ただ内装を変えるだけでなく、運用ルールも、福利厚生などの社内制度も含めて、積極的に変化するようにしています」(千本氏)

最初に改装された「ラスベガスの部屋」は、2018年5月のGW休暇にふたたび大改装が施され、それまで倉庫として使用されていたスペースを潰して全体をフリーアドレス化している。ちなみに、フリーアドレス化に関しては同年2月から営業部門を中心に順次導入されており、ノートPCを持って好きな場所で仕事ができるようになったという。

「社員のモチベーションを高めるにはどうすればいいか、いろいろ試しています。フリーアドレスで毎日座る位置が変われば、社内のコミュニケーションも活発になります。また、商談スペースが埋まっていたら社内用のミーティングスペースを使うなど、選択肢も広がります。管理部門や開発部門でもフリーアドレス化の導入を検討中で、運用上の課題が解消されれば、変わる可能性があります」(千本氏)

同社は情報を扱う会社としてセキュリティには特に配慮しており、監視カメラで24時間365日映像を記録しているほか、社員が入退室時に使用するIDカードを個人の銀行のキャッシュカードと一体化することで、たとえ上司や同僚にも貸し出しができないようにしている。PCに関しても、USBメモリ等でデータの社外持ち出しができないようにロックがかけられているという。

「従来、営業時間外はフロア全域にセコムの警戒警備を設定し、施錠権限は役職者に限定していました。しかし、完全フレックス制を導入したのに伴い、早朝出勤してきた社員がオフィスに入れないとの声があったため、今後はフロアを3分割して、重要度の低いエリアに限定して一般社員もIDカードで入退室できるように、現在準備中です」(千本氏)

ミニーマウスの部屋

ミニーマウスの部屋

忍者の部屋

忍者の部屋

ローマの部屋

ローマの部屋

5. 日々のワクワク感を大事にするためにテーマパーク型オフィスを継続していく

すでに改装工事を終えた各部屋もこれが最終形ではなく、今後も日々変化していくことが想定されている。同社は毎年15名前後の新卒採用を行っているほか、中途採用にも熱心に取り組んでおり、毎日平均2~3名の採用面接を実施しているという。それだけ人が増えれば、オフィスも必然的に変わっていかざるを得ない。

「オフィスの変化は、採用面においても効果が期待できます。応募者の印象に残れば、かりに今回は入社に至らなかったとしても、数年後にふたたび応募してくれる可能性がありますから」(福富氏)

その他、お客様に対するPR効果や働いている社員に対しての効果も絶大だ。

「例えば、『潜水艦の部屋』でuSonarのデモンストレーションを行うことがあるのですが、インパクトが大きいため商品PRの場として最適です。また、『ホーンテッドマンションの部屋』では昼食や夜食用の弁当などが全額会社負担で用意されていることもあり、プロジェクトの繁忙期には社員の憩いの場となっています」(千本氏)

「テーマパーク型オフィスというコンセプトは他社にはありません。これからもワクワク感のある働く場を提供していきたいと思っています」(福富氏)

この事例をダウンロード

バックナンバーを一括ダウンロード