LIDDELL株式会社

2018年3月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

Instagramに投稿したくなる
「Fusion Base(融合拠点)」のオフィス

「インフルエンサーマッチングプラットフォーム(SPIRIT:スピリット)」、「ソーシャルメディア運用代行(PRST:プロスト)」など、個人の可能性を支援する事業を展開するLIDDELL株式会社。2014年10月に別会社の一事業部として創業した同社は、2016年11月に独立すると、翌2017年には2度の本社移転を実施している。2017年4月に開設したスタートアップオフィスと12月に実施した移転後の新オフィスについて、同社の考え方を伺った。

福田晃一 氏

LIDDELL株式会社
代表取締役/CEO

福田晃一 氏

関根貴大 氏

LIDDELL株式会社
ACTIVATION ROOM
DYNAMIC STRATEGY

関根貴大 氏

フリースペース

フリースペース

Contents

  1. インフルエンサーマッチングプラットフォームを展開
  2. スタートアップオフィスに入居後、2ヵ月足らずで移転先を探し始める
  3. ベンチャー企業は勢いと流れが大事。2年も同じ場所に留まってはダメ
  4. 社名の由来とも関係の深い、オフィスデザイン上の秘められたモチーフ
  5. 想像を一つ越えたオフィスをつくりたい。それが会社の信頼につながる

1. インフルエンサーマッチングプラットフォームを展開

インフルエンサーとは、「ソーシャルメディアを活動の中心とし、多くのフォロワーに影響力を持つ一般の人たち」と定義される。TwitterやInstagramなどのSNSの世界では、芸能人や企業経営者などの著名人ではないにも関わらず、フォロワー数が3万人というような「名もない一般人」が少なからず存在している。本人や所属組織の知名度ではなく、発信する情報の面白さ、独特の着眼点や斬新な切り口などが評価されて多くのフォロワーを集めている人々である。この人々の持つ社会的な影響力に着目し、彼らのソーシャルメディアを通じて展開される広告戦略が、「インフルエンサーマーケティング」だ。

「インフルエンサーマーケティングは、いわゆるステルスマーケティング(ステマ)とは違います。広告に見えないように装って商品を宣伝するのがステマですが、インフルエンサーは〔PR〕のハッシュタグをつけ、広告であると明示した上で情報を発信します。例えばある商品について、メーカーや販売元が『美味しいよ!』とアピールするよりも、一般人であるインフルエンサーが実体験に基づいて『美味しかったよ!』と発信する方がはるかに説得力を持ち、広告効果も高くなります。このインフルエンサーマーケティングには、きわめて高い経済効果が認められています」(福田 晃一 氏)

だが、広告を出稿したい企業や広告代理店は、影響力を持つインフルエンサーがどこにいるのかがわからない。そこで、インターネット上で広告主とインフルエンサーをマッチングさせるプラットフォームを構築し、両者を結びつけるビジネスを思いついたのだという。こうして創業したLIDDELL株式会社は、基盤となるシステム「インフルエンサーマッチングプラットフォーム(SPIRIT:スピリット)」を開発・運営するとともに、登録インフルエンサーのサポートなどを行っている。

「現在では約2万人のインフルエンサーが当社のプラットフォームに登録していただいております。この人たちは独自の価値観を持っており、そこに多くのフォロワーが共感し、『いいね!』やコメントを付けていくことになります」(福田氏)

現在利用されているソーシャルメディアの主流はInstagramとなる。2017年の流行語大賞に「インスタ映え」が選ばれたことなどで一躍注目を集めたが、同社では4年前の創業当時からすでにInstagramの広告効果に着目してきた。インフルエンサーの本質は「共感」にあり、写真や画像を用いることでフォロワーがより共感しやすくなるためだ。

「Instagramを活用して広告効果を上げるには、単に面白い写真を撮る技術とか、ウケるネタを探してくるノウハウだけでは不十分です。そのネタを発信するときどのように編集していくか、企画力や構成力、ハッシュタグ付けのうまさ、インタラクティブなコメントへの対応力などが優秀なインフルエンサーの資質となります」(福田氏)

2. スタートアップオフィスに入居後、2ヵ月足らずで移転先を探し始める

創業者である福田氏は、18年以上にわたってさまざまなビジネスを立ち上げてきた起業家である。現在のビジネスモデルの源流となったのは、以前芸能プロダクションを経営していたとき、読者モデル(いわゆる読モ)がファッション雑誌の読者にもたらす影響力であったという。

「読モもそうですし、渋谷のギャルなどはストリートにおけるインフルエンサーだと言えるでしょう。彼女たちが流行の最先端を紹介し、多くのフォロワーがその流行に追随していくという図式は、インフルエンサーマーケティングそのものです。ソーシャルメディアが普及したことで誰もがネット上で、『自分の雑誌』をつくれるようになり、大手出版社の発行する雑誌と同等以上の広告効果を上げられるようになったのです」(福田氏)

「これはビジネスとして成立する」と確信を持ち、2014年10月に芸能プロダクション会社の一事業としてスタートした。その後、2016年11月に完全独立したが、その時は約15坪のオフィスだったという。

「当初は創業メンバー3人だけでやっていましたが、徐々に人が増えていき、2017年4月にオフィスを移転することになりました。これが渋谷区神宮前にスタートアップとして開設したオフィスです。広さは50坪でした」(関根 貴大氏)

関根氏は3人の創業メンバーの1人で、福田氏とは学生時代から旧知の仲だという。グループ会社からの独立後のオフィスはビルの最上階で、バルコニーだけで15坪もあった。天気のいい日は富士山が見えるなど、社員からの評判も上々だった。しかし入居から2ヵ月と経たない同年6月には、早くも移転先を探し始めていたという。

「入居したときから、年内には広いスペースの場所に移ろうと考えていました」(福田氏)

3. ベンチャー企業は勢いと流れが大事。2年も同じ場所に留まってはダメ

わずか2ヵ月目から移転先を探し始めたのは、手狭になったからでも、オフィス自体に何か問題があったからでもない。

「スタートアップの醍醐味といえばやはり社内の一体感だと思いますが、最上階の1フロアという環境は一体感を醸し出すのに効果的でした。夏にはバルコニーに出て、社員一同で神宮外苑花火大会を楽しんだりもしました」(関根氏)

入居当初から短期間の使用を想定していたとはいえ、コンセプトに基づいて細部までしっかりつくり込まれたオフィスである。積極的な採用戦略で人がどんどん増えていたが、移転実施の時点でも50坪に対して社員20名と、ちょうどいいくらいの広さであったという。

「よく『魚は水槽の大きさに合わせて成長する』などと言います。同じように組織の成長にも『器の大きさ=オフィスの広さ』が影響すると考えたからです。50坪の広さでは、そこに収まる規模までしか成長できないということ。逆に、器が大きくなれば人も仕事もたくさん増えるだろうと。さらなる成長への期待を込めてのことです」(福田氏)

新オフィスは旧オフィスの4倍、約200坪の面積を有することになった。移転先の立地は同じ渋谷区神宮前で、なんと旧オフィスからほんの数軒隣であった。

「神宮前という立地に特別なこだわりがあったわけではありません。ただ『運気の流れがいい』と言いますか、感覚的に気に入っています。この周辺は2020年の東京五輪に向けて活気がありますし、新しく大きな物(=オリンピックスタジアム)もできますから」(福田氏)

こうして2017年8月末には移転先が決定し、9月には内装工事を開始。12月には新オフィスへの移転が完了した。結局、スタートアップのオフィスにいた期間はわずか8ヵ月。代表自らの意志とはいえ、これほど短期間で移転することになったために、3ヵ月分は賃料を二重に支払わなければならないなどの経済的損失も生じたという。

「ベンチャー企業というのは、勢いとか流れというものを大事にしなければならないと思っています。それこそ、2年も同じオフィスに留まっているようじゃダメだと。ですから、旧オフィスも、本当は移転したくないくらい良い感じだったのですが、敢えてすぐに移転したのです」(福田氏)

しかし福田氏が希望する条件の面積を1フロアで確保できる物件は見つからず、あっても賃料相場的に折り合わなかった。結果的に新本社オフィスは2フロアに分かれることになったのである。

「2フロアに分かれたといっても、それぞれワークスペースとミーティングスペースという形で使い分けていますから、社内の一体感は保たれていると思います。現状は3階にワークスペース、4階が応接フロア・セミナースペースとなっています。3階のフロア内にバーカウンター、フリースペース、2室の会議室なども設けていますが、将来的に社員数が増えてきたら仕切っている壁を壊してワークスペースを拡張する予定です」(福田氏)

カウンター

カウンター

応接室

応接室

畳部屋

畳部屋

この「壁」を壊す、きたるべき「その日」には、ハンマーで壁を叩き壊すパフォーマンスを考えていると冗談交じりに語る。

「新オフィスのデザインは、基本コンセプトを福田がまとめ、細かいディティールに関してはスタッフからも意見を吸い上げています。テーマは『Fusion Base(融合拠点)』。人と感性の遭遇が化学反応を起こす場を目指します」(関根氏)

一度訪れたインフルエンサーに「また来たい」と思わせるために、「集まった人が混ざり合い、融合するオフィス」というコンセプトを打ち出した。まさにインフルエンサーファーストの目線となる。そのため、エリアごとに世界観を変えて、インフルエンサー達が写真を撮ってInstagramに投稿したくなるようなオフィスを構築したという。

「こだわったのは『古くならない』という点です。たとえば、施工の時点で最新のトレンドを採り入れたとして、そんなものは1年もすれば廃れてしまうかもしれません。そこで、内装デザインの担当と相談しながら『次にくるトレンド』を予想して、そのイメージでデザインをしてもらいました」(福田氏)

4. 社名の由来とも関係の深い、オフィスデザイン上の秘められたモチーフ

LIDDELLの新本社オフィスを観察していくと、随所に共通のモチーフが秘められていることに気づく人もいるかもしれない。たとえば、会議室の壁に描かれたイラストであったり、会議室の名称であったり、テーブルの上の小物であったり......。それは、ローティーンの少女であり、トランプであり、デフォルメされた猫やウサギである。

「これらのモチーフは、じつは当社の社名とも密接に関係しています。特に秘密にしているわけではありませんが、わざわざ話すことでもないので。社員でも知らない者も多いと思います」(福田氏)

これらのデザインのモチーフとなっているのは、英国の作家ルイス・キャロルの児童小説である『不思議の国のアリス』(およびその続編となるシリーズ作品)だという。原作の初版発行は1865年、LIDDELL創業の約150年前になる。また、2010年にはティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』という映画が公開されるなど、150年もの歴史を超えてさまざまな関連作品が今なおつくられ続けている。

「150年前に生まれた『アリス』というコンテンツは、時代とともにいろんなメディアやツールで展開され、今なお輝きが失われていません。それは一過性のトレンドではなく、時代性と普遍性を有しているからだと思います。会社を立ち上げるとき、『アリス』のような優良なコンテンツをつくっていきたいという強い思いがありました。それが社名の由来になっています」(福田氏)

この『不思議の国のアリス』は、ルイス・キャロルが一人の少女に即興で話して聞かせた物語が原型となっており、この少女が主人公のモデルにもなっている。この少女の名はアリス・リデル(Alice Liddell)という。

「壁に掛けられた猫のイラストは『不思議の国のアリス』に登場するチェシャ猫をモチーフにしており、ヒゲにLIDDELLのロゴが隠されています。ウサギのイラストのモチーフは三月ウサギ。これらのイラストは、当社のロゴデザインを担当したインフルエンサーでもあるイラストレーターの方に描き下ろしていただきました」(福田氏)

これらの会議室のイラストなどについても、オフィスを訪れたインフルエンサーが自由に撮影することができ、Instagramに投稿できるようにしている。

「なお、これは旧オフィスからの試みですが、インフルエンサーの方が自撮りされることを想定して、なるべく映り込みを防ぐレイアウトデザインになっています。さらに、視覚的な要素だけでなく、音楽やオリジナルで調合した香りを出して、五感に訴えかけるオフィスづくりを心がけています」(関根氏)

「チェシャ猫」をモチーフとした書下ろしのイラスト

「チェシャ猫」をモチーフとした書下ろしのイラスト

セミナースペース

セミナースペース

セミナースペース2

セミナースペース2

5. 創造を一つ越えたオフィスをつくりたい。それが会社の信頼につながる

「オフィスは最初にしっかりと考えてつくるべきですね。仮に月給80万円の営業マンを1人雇うより、その分の費用でPRできるオフィスをつくったほうが費用対効果は上かもしれません。そのメリットは採用活動にも及びます。まだ設立1年たらずの会社ですが、今年の4月に新卒4人が入社。来年度も新卒採用を予定しており、インターンも着々と増えています」(福田氏)

僕らはオフィスにもビジネスにも常に時代性と普遍性を兼ね備えることでサスティナブルなサービス・コンテンツを目指していきたいと思っています」(福田氏)

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