株式会社ニッセイ基礎研究所

株式会社ニッセイ基礎研究所

2013年4月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

フロア移転を機に「快適な節電」を可能にするスマートオフィスへの取り組み

日本生命の創業100周年記念事業として1988年7月に設立されたニッセイ基礎研究所は、経済・金融・年金・不動産・社会保障・文化政策などを調査するシンクタンクだ。今回のフロア移転では、室内環境の快適性やオフィスワークの生産性を損なうことなく大幅な節電が可能なスマートオフィスの実現を目指した。移転作業が一段落した今、移転プロジェクトの中心となった不動産研究部長の松村徹氏にお話を伺った。

スマートオフィスへの取り組み

プロジェクト担当

松村 徹氏

株式会社ニッセイ基礎研究所
松村 徹氏

金融研究部門
不動産研究部長
主席研究員

はやわかりメモ

  1. 無駄な空間の削減で1.4フロアを1フロアに集約
    創業から四半期を経て、研究員の減少や組織改変などを背景に無駄な空間(デッドスペース)が多数発生。今回、フレキシビリティの改善とともに0.4フロアを削減し1フロアに集約した。
  2. 入居ビルの改修工事に伴うフロア移転を契機にスマートオフィスの実現に取り組む
    目標は、ビルの建築・設備に手を付けず、テナントが独自に行える「室内環境の快適性やオフィスワークの生産性を損なうことなく節電可能なスマートオフィスの実現」。LEDを使ったタスク&アンビエント照明や最新のシステム環境などを用意して新たなワークプレイスを構築。結果として消費電力を大幅に削減できるインフラを整備した。
  3. 所員の要望を調整しながらコンセプトを具体化することが重要
    アンケートやヒアリングで所員の多様な要望をくみ上げながら、当初のフロア設計コンセプトを具体化していった。新オフィスの運用開始後にもアンケートを実施、適切な調整を行うことでより満足度の高い執務環境づくりを目指す。

レイアウトの見直しと家具類の刷新で1.4フロアから1フロアに集約。

2005年に日本生命日比谷ビルから現在の九段センタービルに移転してきたニッセイ基礎研究所。当時はビルの約1.4フロアを使用していたが、今回のフロア移転を機に1フロアに集約した。

「移転自体は入居しているビルの改修工事に伴うもので、当社として切実な必要性があったわけではありません。しかし2階が受付・会議室ゾーン、3階が執務室・情報センターとなっていたため、お客様の来社や郵便物が届くたびに上下移動しなければならず、業務効率がやや阻害されていたことは確かです」

執務室の広さは、創業時とあまり変わっていなかったが、その後の研究員の減少や組織改変によってフロア内に多数の無駄な空間(デッドスペース)が発生。所員にとっては余裕ともいえる空間だが、空いている分だけ書類や図書が乱雑に積み上がって美感上も問題だったという。また、設立当時に導入した家具類もフレキシブルなレイアウト変更を阻害してデッドスペースを生み出す要因の一つとなっていた。

「設立当時に購入した大型デスクは、ブラウン管型モニタを前提にした奥行きの深い半特注製品で、パーテーションも家具一体型のために取り外しができませんでした。また、これを使う研究部門と既製品を使うスタッフ部門で互換性がなく、組織改変などの際に無駄が生じました。半特注だったためメーカーも大量生産しておらず、次第に在庫がなくなって、研究部門でも2種類の机が混在する状態でした」

「すぐに対策を考えればよかったのでしょうが、家具の刷新にはそれなりにコストもかかり、オフィス移転などの大きなイベントがなければ、なかなか取り組めないものです。今回の移転に際して、委託したコンサルタント会社から、1人当たり面積でみれば、通常より相当に余裕のある広さだと指摘されました。組織規模は小さくなったのにスペースはそのままだったわけです」

入居ビルの改修工事に伴うフロア移転を契機に
スマートオフィスの実現に取り組む。

入居ビルの改修工事が契機ではあるが、移転計画を進めていく中で、1フロア集約でオフィスのランニングコストも削減できることは、思い切って色々なことにチャレンジできる良い機会だと考えるようになった。共用部はビルオーナーによる改修工事で省エネ性と快適性が向上することはわかっていたので、専用部分の省電力化に積極的に取り組むことをコンセプトに掲げた。

目標としたのは、「ひたすら我慢する節電オフィス」ではなく、室内環境の快適性やオフィスワークの生産性を損なうことなく節電ができる「スマートオフィス」の実現。特に東日本大震災後の節電を経験し、また今後は電気料金引き上げが不可避と思われることもあり、今回のフロア移転において省エネ・省電力化が大きなコンセプトの一つとなり、社内に対して単なる引っ越しではないことを強く訴えることができたという。

スマートオフィス設計の基本コンセプト

  • 執務環境の改善
    研究員がより集中できる環境を確保すると同時に、相互がオープンにコミュニケーションできる風通しの良い雰囲気を醸成し、調査研究の品質向上を支援する。
  • 省スペース化+レイアウト自由度の向上
    組織規模とワークスペースのミスマッチを解消し、レイアウトの自由度・可変性を高め、フロア利用効率を改善する。
  • 省エネ・省電力化
    社会的要請である節電に積極的に取り組み、室内環境の快適性やオフィスの生産性を損なわないスマートな節電環境を整備する。
  • 危機管理の強化
    防災備蓄や情報セキュリティを強化する。

以上を実現するため、家具・調度類、レイアウトなどを一新し、1フロアに集約した新たなワークプレイスを構築する。。

オフィスビルでは、エネルギーの85%は冷暖房用の空調と照明・コンセントで消費されているという。昨夏に実践した天井の間引き照明による節電効果を踏まえ、「LEDを使ったタスク(作業領域)とアンビエント(周辺領域)照明器具をデスクに設置する」ことにより「業務に必要な机上照度を確保しつつ、夏の節電強化時などには蛍光灯の既設天井照明の点灯を不要」にした。ニッセイ基礎研究所では、LED化による専用部の照明に関わる電気使用量は最大7割削減可能と試算している。加えて照明器具から発生する熱負荷の低減効果も期待できるという。全フロアの53%に相当するエリアに、既製品のタスクライト111台、特注のアンビエント照明79台を設置した。

さらにパソコンなどの情報機器も最新のものとし、セキュリティの強化に加え、省スペース化と省電力化を実現している。スペック上、端末(本体+ディスプレイ+光学ドライブ)の消費電力は,従前のパソコンの10分の1である。また、大学教授などを兼務する客員研究員の不定期な利用も想定し、どの席からでもパソコン業務ができる環境を整備して、座席レイアウトのフレキシビリティを高めている。この他、フロア内に分散していた複写機やファックス、プリンタを最新の複合機に集約し、省スペース化と省電力化を図っている。

「既存オフィスビルの全館LED化は、費用負担が大きくビルオーナーは消極的になりがちです。しかし、私たちの場合は、オーナー都合の移転のため移転補償を受けることができた上に、賃貸面積を削減することで今後のランニングコストも削減できました。このようなタイミングをうまく捉えたことで、テナント独自でこれだけのスマートオフィス化を進めることが出来たのだと思います」

所員の要望を調整しながらコンセプトを具体化することが重要

ニッセイ基礎研究所では、研究員1人で完結する仕事も多いが、数名がチームを組んで行う仕事もある。そこで4人一組となるようL字型デスクを背面対抗の形で配置した。同じチーム内なら、そのまま互いに後ろを振り返ると簡単に意思疎通ができる。また、今回の家具は既製品を購入。机上面積はほぼそのままにデスクの奥行きを薄くし、パーテーションの有無以外、研究員、スタッフとも同一のデスクを使用する。

「意見聴取は大事ですが、個別の要望を全て聞いてしまったら何でもありのオフィスになって統制がとれなくなります。例えば、パーテーションが低く、デスクの奥行きが薄くなった点に不満を持つ人もいましたが、L字デスクにパソコンを斜めに配置することで前の人と対面しないよう工夫し、集中力を阻害しない環境としつつ省スペース化も目指しました。また、情報センターエリアの窓際に集中ブースを3席用意したのも、研究員がより集中できる環境を支援するためです」

「タスクライトは調光可能ですが、調色までできる最新機種はあえて採用しませんでした。タスクライトに限らず、個人にあまりにも自由な調整を任せてしまうと、せっかくのオフィスの統一感や雰囲気を阻害する可能性があると考えたためです。自分勝手なタスクライトや電話の使い方で、周囲の人の迷惑になるケースがあるため、運用ルールを決めることも移転プロジェクトのフォローアップとして重要な課題になります」

図面ではわからなかった課題も、運用を開始してはじめて見えてきた。

「執務エリア内にミーティングルームを2カ所設けたのですが、ここでの話し声が想定以上に近くに座っている人の集中を妨げることがわかり、他の利用方法も検討しています。1フロア集約で以前より人口密度が高まったのは事実で、集中が求められる研究フロアにおける音の問題は大きな課題の一つです。移転後まだ1カ月ですから、今後も新たな改善項目が出て来ると思います。いずれにしても、適切な調整を行うことで、より満足度の高い執務環境をつくっていきたいと思っています」

会議室エリア

受付横のセキュリティを通って入る会議室エリア。大小8室の応接室が用意されており、少人数用、プレゼン用、説明会用など、その用途によって使い分けることができる。

会議室エリア1
会議室エリア2

受付

美しくデザインされた照明の受付。その横には、予約なしの急な来客でも利用できるサロンスペースを用意している。

受付2
受付1

情報センターエリア

リフレッシュ空間も兼ねる情報センターエリア。ソファや給茶機なども備え付けられており、研究員同士で程よいコミュニケーションを取ることもできる。

情報センターエリア

執務エリア

タスク&アンビエント照明の執務室全景(左)と主席研究員・理事席(右)。天井とクロスの色だけでなく、デスク天板や収納棚も白色にすることで、少ない照明でも明るくなるよう工夫している。天井照明を全く点けていないためやや暗く感じるが、机上を見ると十分な照度が確保されているのがわかる。

執務エリア1
執務エリア2

集中ブース

情報センターエリア内に3席設けられている。自席では周囲に迷惑がかかる長時間の電話取材の際などに使用する研究員も多い。
集中ブース

閉架式書架

情報センターエリアの可動式書架。書籍、雑誌合わせて実に35,000冊。保険分野に関わる蔵書数の多さは生保の研究所ならではのものだ。
閉架式書架