デマント・ジャパン株式会社

2025年10月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

生産能力の向上を目指してオフィスを拡張
ひたすら効率を追求した「ワンウェイ」ラボ

「オーティコン(Oticon)」を補聴器フラッグシップブランドとして、聴覚ヘルスケア製品をグローバルで展開するデマント社。その日本法人であるデマント・ジャパン株式会社はこの度、オーダーメイド補聴器事業の要であるラボ(補聴器製造・修理工場)の拡張を主な目的に、川崎エリアから品川エリアへの移転を実施。一般的なオフィスとは異なる機能を持つ拠点ならではの苦労やオフィス機能のポイントと、オフィスに施した工夫についてお話を伺った。

矢込 和彦 氏

デマント・ジャパン株式会社
Chief Operating Officer

矢込 和彦 氏

加藤 孝男 氏

デマント・ジャパン株式会社
グループサービス本部
プロダクションサービス部 部長

加藤 孝男 氏

濱井 俊輔

三幸エステート株式会社
国際営業部

濱井 俊輔

Contents

  1. BrainHearing™を強みに。あらゆる角度から人々の「聞こえ」にアプローチ
  2. 本国の意向を確認しながら立地と設備面の検討を重ねた
  3. 徹底的な効率化。工夫を凝らした「ワンウェイ」ラボ
  4. オフィスは間接的にお客様に会える場所。そして有用なコミュニケーションの場

コーティング作業エリア

コーティング作業エリア

BrainHearing™を強みに。あらゆる角度から人々の「聞こえ」にアプローチ

福祉先進国デンマーク発のブランドであるオーティコン補聴器は、補聴器の輸入商として1904年に発足。現在は世界的な聴覚ケアグループ、デマントへと成長して、「聞こえ」に悩みを抱える方をサポートするために、世界130カ国以上で展開している。

デマント・ジャパン株式会社は、その日本法人として1973年から国内で事業を開始し、補聴器の製造販売を行っている。同社のオフィスには、シスターカンパニーである、診断機器事業を行うダイアテックジャパン株式会社や、リテール事業を行うAudika株式会社も入居しており、デマントのパーパスである「ライフチェンジング ヒアリングへルス(聴覚ヘルスを通じて人々の人生を大きく変えていく)」のもと、さまざまな角度から人々の聞こえを快適にするための活動を行っている。

オーティコン補聴器の特長は、脳から聞こえを考える「BrainHearing™(ブレインヒアリング)」を開発理念として補聴器を開発・製造しているという点だ。従来の補聴器技術である指向性から脱却して、周囲360°の音を届け、自然な聞こえを実現しているという。

「鼓膜に振動として伝えられた音の情報は電気信号に変換され、それが脳に送られることで初めて音として認識されます。ただし、脳は入ってくる全ての音を同じように処理しているのではなく、聞きたい音や注意を払いたい音を特定し、そうでない音は聞き流すというような選択的聴取を自然に行っています。当社の補聴器は単に聞こえにくい音を増幅させるだけではなく、より自然な聞こえになるよう、音の集中や理解を支援するという脳の聞く働きをサポートしています」(矢込氏)

本国の意向を確認しながら立地と設備面の検討を重ねた

移転前、同社はJR「川崎」駅至近に立地する大規模複合ビルの1.5フロア、約750坪に入居していた。

1.5フロアのうち、1フロアはラボと執務室、残りの0.5フロアは全て執務室として使用していました。ラボの面積は300坪ほどです。増床を繰り返してきたため間仕切りで完全に区切られているエリアがあり、それがコミュニケーションの妨げとなっているという課題がありました。また、フロアが連続階でなかったこともその課題に拍車をかけていました」(矢込氏)

初めに移転の構想が持ち上がったのは2023年の上半期。事業の順調な成長に、ラボの生産能力が追い付かなくなってきていた。

「このままいけば、2024年のどこかのタイミングで間違いなく限界を迎えるだろうという兆しが見えていました。移転を本国へ打診するため、まずは情報を収集すべく、三幸エステートさんにお声がけしました」(矢込氏)

連絡を受け、訪問したのは三幸エステート 国際営業部の濱井俊輔。本国との交渉に向け、全国のオフィスマーケット情報を提供しながら、具体的な物件候補の提案も行った。

「本国の意向で、首都圏に限らず、全国の物件を視野に入れて探すことになりました。主な条件は大きく二つ。まずは物流面、輸入ができる国際空港に近いことと、国内の遠隔地への供給のためのメジャーな空港に近いこと。もう一つは、災害の影響が比較的少ないエリアであることです」(矢込氏)

「当社各支店の営業の協力も仰ぎながら、ご希望の面積とラボ機能を受け入れられるスペックを有する物件を、エリアごとに選定しました。関東圏に関しては、旧オフィスに近い川崎周辺エリア、羽田空港などへの交通に便利な品川周辺エリアを中心にご提案いたしました」(濱井)

有力候補となったエリアは横浜、品川、福岡。本国との交渉を続けながら、各種条件を比較し移転先を絞り込んでいく。

「今回はラボの拡張が目的の移転ですので、設備条件も非常に重要でした。床が機器の重量に耐えられることはもちろんですが、製造工程で薬品を扱うため大掛かりな排気ダクトを設ける必要があり、これを屋上ではなくフロアの外壁から屋外へ出せるかどうか。それによって工事金額が大幅に変わるため、希望の排気ルートを確保できるかは大きなポイントでした」(加藤氏)

「福岡は空港からオフィスエリアへのアクセスが良く、周辺環境も充実しています。しかし希望条件に合致する物件が少なく、それならば関東圏での移転がベストという結論になりました。通勤条件やコスト面を含めて総合的に比較した結果、今回の物件への移転が決まりました」(矢込氏)

移転先は、品川エリアのオフィスビル。連続階の2フロア、約890坪への入居が決定した。

徹底的な効率化。工夫を凝らした「ワンウェイ」ラボ

続いてオフィス構築のフェーズに移る。今回はラボという特殊要素が多くを占めるため、内装設計についてはB工事の担当業者に引き続き依頼することにした。

「技術面で相談すべき部分が多かったため、ビル設備に詳しい会社にお願いすることが最もリスクが少ないと判断しました。そうすることで工事をワンストップで進められるため、より効率的にプロジェクトを進行できるというメリットもありました」(矢込氏)

広義のオフィスコンセプトは、社内コミュニケーションの活性化による、より一層の効率化の向上とイノベーションの創出。メインとなるラボについては、「ワンウェイ」を強く意識したという。

「旧ラボは増床を繰り返していたこともあり、工程順に並んでいない作業エリアがありました。エリア間の行き来だけで、無駄な時間が相当発生していたのではないかと思います」(矢込氏)

「どうすれば『ワンウェイ』を確立できるか。チームの責任者とともに、かなりの時間をかけて検討しました。ポーランドにある基幹工場の視察も行っており、プレッシャーもありましたが、最終的には整然としたレイアウトに収めることができました」(加藤氏)

それでは新オフィスを紹介しよう。11階に設けられたエントランスは、白を基調とした清潔感のある佇まいになっている。壁面には同社およびグループ会社のロゴに加え、取り扱い各社のロゴがずらりと並んでおり、実に壮観だ。

エントランス

エントランス

そこから先に進むと執務エリアとなる。フロア中央にはソファ席やハイテーブルを設置。吸音材を用いたセミオープンの打ち合わせスペースも整備されている。従業員同士がより気軽にコミュニケーションを取れるようにと設けたエリアで、誰もが自由に使うことができる。

執務エリア

執務エリア

ソファ席やハイテーブル

ソファ席やハイテーブル

「普段このオフィスに来ない人たちも含めて、何かあった時はここに集まれるよう、意識的に広く設けました。これまでは会議室で行っていた四半期ごとの業績発表なども、今後はこのエリアで開催しようと考えています」(矢込氏)

このほか、11階には通常の会議室や、1on1用の個室も用意されている。

会議室

会議室

10階は1フロア全てをラボとして使用。効率的に製造・修理が行えるよう、計算されたレイアウトだ。

実は補聴器業界では、製品について理解を深めるために販売店が各メーカーのオフィスやラボを見学することはよくあることだという。見学者への配慮として、見学ルートはあえて床材を変更した。それに沿って進むことで、同社の補聴器製造の一連のプロセスが理解できる仕組みになっている。

また、効率化の工夫はレイアウトだけではない。ラボ内を走行する運搬ロボットの導入もその一つだ。

ラボの入口

ラボの入口

運搬ロボット

運搬ロボット

「工程間の製品の移動はロボットに任せています。ちなみに、ミミーや聴助など、ロボットに付けた名前は従業員から募集したもので、『耳』や『聴覚』が由来です」(加藤氏)

「こうしたさまざまな工夫と配慮のおかげか、『非常に洗練されていて素晴らしいラボですね』という声をたくさんいただいています」(矢込氏)

コーティング作業エリアには、オフィスビルの中とは思えないほどの大規模なダクトが通っている。梱包・発送エリアの手前には既製補聴器の在庫スペースを設けた。各エリアに設置したモニターには、週次の出荷目標と実績が表示されている。

「製造・修理ともに、オーダーいただいてから既定の日数でお渡しできるように作業しなければなりません。こうして数字で可視化することで、ラボ全体が同じ目標に向かっています」(矢込氏)

在庫スペース

在庫スペース

モールド製造機

モールド製造機

順路の最終地点にはラボ勤務者用のリフレッシュスペースを設けた。グローバル基準に則ったコーポレートカラーのチェアや、デザイン性の高いダウンライトを取り入れている。さまざまなシーンで活用され、従業員からの評判も上々とのことだ。

リフレッシュスペース

リフレッシュスペース

オフィスは間接的にお客様に会える場所
そして有用なコミュニケーションの場

「今回の移転で、社内コミュニケーションは格段に改善されました。オフィス全体を見通せるようになり、異なる部署や各チーム間の連携も取りやすくなったようです」(加藤氏)

さまざまな工夫を凝らし、より無駄なく、機能的に進化を遂げた同社の新オフィス。同社にとって、オフィスの必要性はどのようなものだろうか。

「私たちは長年にわたりお客様の補聴器を扱ってきました。しかしながら、営業スタッフ以外はお客様にお会いする機会がほとんどありません。お客様のための製品に実際に触れる、言わば『間接的にお客様に会える場所』であるオフィスの存在は、私たちにとって非常に重要だと考えています」(加藤氏)

「当社はラボがなければ成り立たない業種ですから、こうしたオフィスの存在は絶対です。執務室に関して言えば、効率化やコストカットを最優先するならフルリモートという選択肢もあるのかもしれません。ですが、対面とリモート、それぞれのコミュニケーションはやはり似て非なるものだと感じています。一定以上のクオリティのオフィスは、より質の高いコミュニケーションのための場として、今後も必要不可欠なツールだと思います」(矢込氏)

デマント・ジャパン株式会社

「ライフチェンジング ヒアリングへルス(聴覚ヘルスを通じて人々の人生を大きく変えていく)」という企業理念を掲げ、2023年に日本での事業開始から50周年を迎えたデマント・ジャパン株式会社。「第25回夏季デフリンピック競技大会 東京2025」(2025年11月開催)への協賛など、聴覚ヘルスに関連する各種活動支援も積極的に行っている。これからも人々の聞こえと健康のサポートのため、飽くなき探求を続けていく。


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