株式会社セールスフォース・ドットコム

株式会社セールスフォース・ドットコム

2014年12月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

米国オフィスのグローバルスタンダードから日本流のオフィスを構築した

サンフランシスコに創業したセールスフォース・ドットコム(以下セールスフォース)。以来、CRM(顧客管理)のプラットフォームを提供し、そのシェアは世界トップを誇る。現在、全世界26ヵ所に事業所を展開中で日本法人は2000年に設立された。昨年7月に六本木から丸の内に本社移転を実施。グローバルスタンダードをベースにしながら日本流のオフィスを構築したという。今回はその移転プロジェクトの中心となった八廣 真里氏にお話を伺った。

プロジェクト担当
八廣 真里氏

株式会社セールスフォース・ドットコム
リアルエステイト&
ワークプレイスサービス
ディレクター

八廣 真里氏

「The ARRIVAL」と呼ばれる12階フロアに設置された受付

「The ARRIVAL」と呼ばれる12階フロアに設置された受付。ここからセールスフォースのアプローチが始まる。

はやわかりメモ

  1. クラウド・コンピューティングの次世代を支えるリーディングカンパニー
  2. オフィス移転の最大の理由はマーケット戦略による立地改善
  3. オフィススタンダードは全世界共通 そこに日本流の要素を加える
  4. さらにコミュニケーションを図る仕組みを取り入れた
  5. 社員からのリクエストを反映させながら快適なオフィス環境を提供する
  6. 今後も常に改良を積み重ね使いやすいオフィスを追及していく

クラウド・コンピューティングの次世代を支えるリーディングカンパニー

セールスフォースが提案するCRMプラットフォームは、業種や規模を問わず、モバイルや企業向けSNSなどで企業とその顧客を全く新しいかたちでつなぐ。そしてお客様のイノベーションと成長を支援する。

「日本に拠点を設けて以来、クラウドのリーディングカンパニーとしてさらなる成長を目指します」

オフィス移転の最大の理由はマーケット戦略による立地改善

日本進出にあたり、最初はIT企業が多く集積している渋谷駅近くの大規模ビルにオフィスを構えた。その後、急激な人員増加にともなって六本木へ。そして今回の移転先には丸の内の大規模ビルが選ばれた。

「以前入居していたオフィスは、多くのIT関連企業が入居しておりイメージも良かったと思います。しかし当社のお客様を分析してみると、六本木や渋谷方面よりもむしろ大手町側のほうが多い。それならば、1分でも早くアクションがとれる立地に移転するのがベストだと。また、歴史ある旧東京中央郵便局の跡地に建設されたオフィスビルはアジアパシフィックにおけるフラッグシップとして重要なランドマークとなると考えました。日本国内はもとよりアジア各国へのグローバルな展開をはかるには、このビルしかないと確信しています」

米国本社からCEOが現ビルを見学した際、交通の利便性だけでなく東京駅が見おろせる景観にとても感激していたという。

「せっかくのロケーションを活かすために、メインの会議室はこの眺望を活用できる場所に配置しました。来訪されたお客様には、まずここからの景観を楽しんでもらいます。そして和らいだ雰囲気の中で商談を進める。まさに立地や景観の重要性を再認識しています。12階と13階の2フロアを借りていたのですが、1年後には入居人数が600名超に。わずか1年で手狭になり、新たに11階の増床を決めました。そこで営業スタッフの一部を移動させるだけではなく、一部機能の見直しを行うことにしたのです」

オフィススタンダードは全世界共通 そこに日本流の要素を加える

オフィスデザイン全般の設計を担当したのは外資系設計会社ゲンスラー社。同社は、米国本社のオフィススタンダードをつくった会社である。当然、統一されたデザインコンセプトが東京オフィスにも採用された。しかし、日本流の要素を加えることも忘れなかったという。

「身長も体型も全く違いますので、単に米国のスタンダードをそのまま採用したのでは日本人にとって使い勝手は悪くなるのではと。どのように日本流に咀嚼できるかがポイントでした」

東京本社では空間を大きく5つの機能でゾーニングをしている。「The Arrival」「The CBC」「The Buzz」「The Toolbox」「TheShop」。それぞれの空間には、訪れる方を「魅了」し、時には「活気」づけ、「刺激」し、「リンク」させる。そんなソーシャルネットワーキングを現実の世界で体現できるような空間づくりを目指したという。

「これだけITが発達してくると近くにいる方ともメールでやり取りをしがちです。それを回避する目的でコミュニケーションをするための仕掛けを備えました」

さらにコミュニケーションを図る仕組みを取り入れた

新規増床した11階では、さらにコミュニケーションを図りやすくするための仕組みを取り入れた。

「座席の高い椅子と低い椅子、座ったときに柔らかい椅子と堅い椅子、数人で腰掛けるソファと一人用の席など、あえて画一化しないように心掛けました。オフィス内に"驚き"と"変化"を取り入れるためです」

11階のオフィス計画が順調に進んだのは、社員がオフィスに対する要望や意見を積極的に発信するようになったことも関係している。

「社員で途中経過を見たい方には制限せずに見ていただきました。そうしてできるだけ多くの要望や意見を聞くようにしたのです。その他全社員にアンケートを実施。かなり高い回答率でしたね。そこから改善点を見出し、オフィスの改善に役立てたのです」

以下に社員からのアンケートの回答を抜粋する。かなり細かく考えフィードバックされていることがわかる。

  • ①多目的スペースの改善
    ・東京にしかないユニークな特徴を持たせる
  • ②モビリティーワーク環境の整備
    ・コラボレーションを頻繁に行う部署は会議室に隣接した場所に配置する
  • ③会議スペースの適正化
    ・利用頻度の高い会議室(6~10名)を増やす
    ・ 個人席から目の届く位置に会議室を配置する ・ 窓際のスペースにオープンなコラボレーションエリアを設置する
  • ④自席以外に作業スペースを設置
    ・個人席周辺の動線上にキャビネット兼作業台を配置
    ・コピーエリアに作業スペースを設け、自席での作業を減らす
  • ⑤空調と音響の課題への対応
    ・レイアウトにより問題を軽減させる
    ・個別空調を必要としない会議エリアの計画
    ・複数の会議室が集中しないレイアウト構成

社員からのリクエストを反映させながら快適なオフィス環境を提供する

現在、ビルの11階から13階までの3フロアを使用。受付は『The ARRIVAL』と呼ばれる12階フロアに配置されている。足を踏み入れた瞬間からセールスフォースのアプローチは始まる。広々としたレセプションホールの中央天井にはハワイアンをテーマにした「ロングボード」と呼ばれるインテリア。その下を進むとコアウッドというハワイの木を使ったテーブルが並べられている。待っている間も、中央のモニターではセールスフォースの導入事例が流れる。

加えてセールスフォース独自の香りによる演出。視覚と嗅覚の刺激。セールスフォースでの体験を共有する。それがこの場所の狙いの一つとなっている。
レセプションから続くのは「The CBC(The Customer Briefing Center)」。重要な商談がスムーズに進むように通常の会議室では味わえない贅沢な空間となっている。まるでコンベンションセンターのような役割。会議、イベント、セミナー、パーティなどのさまざまなシチュエーションに対応できるようにデザインされている。

「ここはお客様と商談やプレゼンをさせていただくエリアとなります。米国本社で採用している機能で、評判が良かったこともあり東京オフィスでも取り入れました」

レセプションから続く「The CBC」レセプションから続く「The CBC」。お客様と商談や プレゼンを行なうためのエリアとなる。 cNacasa & Partners

さらに進むと会議室エリアに。9室全てに日本風の名前が名付けられている。

「中でも『飛鳥』はハワイアンコアウッドのローテーブルにソファという日本独特な応接間をイメージさせてエグゼクティブに相応しい空間となっております」

その奥は「The Buzz」と呼ばれる執務室エリアとなる。役員エリアと一般執務室エリアとに分かれており、一般執務室エリアは間仕切りの無いオープンオフィスとなっている。

一般執務室エリアの中でも離席率が高い部署は、米国本社で導入しているフリーアドレスを日本法人で初めて採用した。

「当社ではフレックス・フォースと呼んでいます。オフィス全体の稼働率を高める、かつ社員のマインドを変える、そんな理由からフレックス・フォースを採用しました。その代わりIT性能や通信インフラは最高のものを揃えました。PC1台持って机に座り、ログイン後はすぐに仕事ができるような環境となっています。常に増員計画を行っていることや、海外から頻繁に色々な方が来られることなどから、いつでもどこでもPCを立ち上げるだけで業務を行えるフレックス・フォースの導入は必須に近いものがありました」

「The Buzz」と呼ばれる執務室エリア

そして最も特長的なのは多目的スペースとなる「The Shop」の存在だ。

「『The Shop』は全てのフロアに設けた社員用の憩いの場としてつくられています。社員同士が自然の流れでリンクできるように、意図的にエレベーターロビーの近くに配置。コーヒーを飲みながら朝のひと時を共有できるような場所として位置づけています」

ノートPCを持ち込んで雰囲気を変えて仕事をする、気軽な打ち合わせ場所として使用するなど、多目的な場となっている。新しいアイデアを生み出す場としての役割を考えて、スナックやドリンク、雑誌などのさまざまなアイテムが無料で提供されるという。

「もちろん多目的ですから食事をするのも自由です。ある晩などはサプライズで当部署が中心となってシャンパンをベースとしたカクテルをつくりイベントを企画したことがあります。それだけのことでも皆さんのテンションが上がりました」

それではオフィスの特長的な部分を紹介していこう。

12階

ソーシャルメディアコマンドセンター
ソーシャルメディアコマンドセンター 世界5億以上のSNSより、自社ブランドや市場に関するソーシャルメディア上の会話をモニターしている。時にはセミナー開催後に、ここで飲食ができるようにセッティングすることもある。
会議室
9室用意されている会議室。一番大きな部屋は「京都」。90インチの巨大モニターを設置しており、世界各国の担当者と瞬時にリンクできるように設計されている。
エグゼクティブフロア
エグゼクティブフロア 海外からの経営幹部が来られたときに使用するための個室。6室用意されておりビデオ会議ができるよう完備しており、どの国とでも瞬時に接続可能となっている。
Standing Huddle(スタンディングハドル)
Standing Huddle(スタンディングハドル) フロアに数箇所用意している打合せルーム。快適な空間で頭をリフレッシュさせ、打合せに臨む。リラックスしすぎないように半透明のフィルムガラスを採用している。
The Shop
The Shop

各階に備えた多目的エリア。カラーデザイナーのドナルド・カウフマン(Donald Kaufman)氏の独自のミックスによるもので日本ではあまり見かけない色使いとなっている。

11階

執務室全景
執務室全景 他のフロアと違ってシックな色使いでまとめている。柱の色は12・13階と同色を使い"繋がっている"ことを強調している。全体的にゆったり感を大事にし、高いパーテーションを用いずに見渡せる設計にしている。
雲海
雲海 オフィスコーナーの一角に設けられたオープンスペース。あえて仕切りを設けないことで、誰もが自由に参加できる「大人の遊び場」をコンセプトとした。
Standing Huddle(スタンディングハドル)
Standing Huddle(スタンディングハドル) 文字通り立ちながら戦略を立てるための場所。要件だけを短時間で集中できるのが利点だ。スピード感を重視している会社らしく60分掛かる打合せも30分で済ませることを目標とする。
集中席
集中席 壁際に設けられた一人用の集中席。社員からの要望により導入。側壁の幅をかなり深めに取っているため、周りの様子が視界に入らず集中できる。PC持参での使用も想定しており、社員の使用頻度によっては数を増やすことも検討するという。
The Shop
The Shop


12階、13階と同様に設けられたShopの進化バージョン。多目的としての使用を考え、家具にも一工夫されており、タイヤを付けており容易に移動が可能だ。またパーティの開催を想定してキッチンやディッシュウォッシャーも備えている。11階の「The Shop」では同社が行っている社会貢献活動「Foundation」での活動内容やその成果を展示するスペースを新たに設けた。

「店舗のショールームのようなものです。寄付するものをダンボールに入れるのではなく、ガラス張りのケースに展示することでさらにこの活動が広がることを目的としています」

社会貢献活動 「Foundation」
セミナールーム
セミナールームcNacasa & Partners
The Shopのスライディングドアを取り外すことで60席のセミナールームを120席に拡大することができる。使用に関しては数ヵ月先の予約も入っている状態だという。
昇降式デスク
昇降式デスク 執務室内のデスク。ボタン一つでデスク板の高さを自由に調整できる。最高115cmから最低65cmまでの範囲で変更可能だ。

今後も常に改良を積み重ね使いやすいオフィスを追及していく

六本木から丸の内への移転が2013年7月。その後のオフィス内での増床に伴う改良計画の完了が2014年12月。セールスフォースは社員の声を採用しながらオフィスを構築してきた。そのため本社のオフィスを構築したゲンスラー社とは何度も意見交換を行った。

「いつも社内を回っていますので、社員の表情で不自由にしている点を察知し、変更の提案をすることもあります」

そのような感覚的なことも含めて、順次気づいたことは改善を進めていく。結果としてそれが生産性の向上につながっているという。

「オフィスはつくって終わりではありません。今後は『これらの空間をどのように変えていけばより満足度が高まるのか』を考えていくことが必要だと思っています。社員、お客様共に飽きないオフィスづくりをしていくことが私どもワークプレイスチームの役割なのです」