SGSジャパン株式会社

2015年3月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

世界規模の認証機関が実施した「働きやすい環境」への改善

世界最大規模の検査・認証機関であるSGS(スイス・ジュネーブに本社を有する)。世界中の国で認証、検査、試験、検証のサービスを行っている。製品の品質や安全性の保証、企業のリスクマネージメントが企業存続を左右しかねない今の時代にSGSのような検査・認証機関の果たす役割は大きい。企業がグローバル化を進める中でその需要は一段と拡大している。それにともない日本の拠点であるSGSジャパン成長のために組織の拡大、人員の増強を行ってきた。そうして旧オフィスにおける拡大の物理的な限界を迎え、本社移転を実施する。今回の取材では、あまり詳しく知られていない認証機関の概要とともにオフィス移転を通して行った働きやすさへの改善についてお話を伺った。

プロジェクト担当

鈴木 信治氏

SGSジャパン株式会社
代表取締役社長

鈴木 信治氏

竹内 裕二氏

SGSジャパン株式会社
認証サービス事業部長

竹内 裕二氏

佐々木 佑輔氏

SGSジャパン株式会社
コンシューマー
テスティング
サービス事業部
機能安全グループ
マネージャー

佐々木 佑輔氏

牧田 浩三氏

SGSジャパン株式会社
HSE / ITマネージャー

牧田 浩三氏

3階執務室内のコラボレーションエリア

3階執務室内のコラボレーションエリア

はやわかりメモ

  1. 認証機関の役割は規格審査を行って適合の判を押すだけではない
  2. 製品の品質と安全性確保、及び自社の価値を高める企業の存続をも左右する生命線
  3. 数年先までの採用計画を見据えて十分に広い空間を確保した
  4. 常にコミュニケーションが図れるオフィス環境の整備を目指した
  5. 働く環境を向上させる。それが生産性の向上につながる

認証機関の役割は規格審査を行って適合の判を押すだけではない

企業にとって商品価値を高めることは市場開拓の大きな力となる。そうした信頼を得るためにSGSのような認証機関が存在する。SGSは全世界で165ヵ所の拠点を持ち80,000名を超える社員が活躍。今回取材のSGSジャパンは日本拠点として1922年に開設された。

「グローバル展開している認証機関は世界中に数社ありますが、当社はその中の一社として、各国で異なる規格にも対応した認証業務を行なっています。第三者による認証は規格に準拠している証明を与え、いわゆるお墨付きを与えることになります。それに加えて今後拡大が見込まれるのが、自社や業界の規格・ルールをサプライチェーンに適用することによる高品質や高いレベルの安心などの価値の訴求を行うことによって、自社の製品ブランドの価値を高める動きです」(鈴木信治氏

「競合他社はいくつかあるのですが、その多くは認証の分野でしか業務を行っていません。当社の業務の中で認証は10ある事業分野の一つであり、検査、試験、分析を含めた幅広い業務を様々な、事実上全てのインダストリーに対して展開しています。例えば、試験、分析では消費者に届く様々な物品が規制や規格に基づいた仕様を満たしているかについて試験し、試験後は報告書を提出。試験機関として規格を満たしていることを証明します」鈴木信治氏

「認証の場合、2つのパターンがあります。ISOのような国際規格に準拠している事を証明する場合と、その国や業界、企業の独自基準などに準拠していることを証明する場合です。そのどちらにも対応するために各国の規制や基準を知らなくてはなりません。このような規制や基準は改訂されることもあります。そうした情報をいち早く入手するためにSGSの世界最大のグローバルネットワークの存在がとても重要です」(竹内裕二氏

「SGSのグローバルネットワークは認証分野に加えて、様々な場面においてお客様のリスクマネージメントに貢献しています。海外での大規模プラントプロジェクトにおけるサプライヤの監査、種々のプラント機器・製品、電気・電子製品、食品、繊維製品、玩具といった輸出入の際の検査・試験などがその例です。SGSは日本企業の技術競争力の向上にも貢献しています。自動車の自動運転、高度に複雑化し高機能化するロボットや医療機器など、日本の最重要産業分野での安全性の担保のための技術的アドバイス、認証、そしてその認証基準や規格の策定など、技術革新が進むに連れてSGSの活動領域も日々拡大しています」(佐々木佑輔氏

製品の品質と安全性確保、及び自社の価値を高める企業の存続をも左右する生命線

「最近は食品の分野で安全性が問われる事件が多く、以前から消費者の関心が高い日本では特に市場は敏感に反応します。当社は、農産物の調達現場から生産、物流、販売までのサプライチェーンの審査や認証も行っています。様々な規格に準じて消費者に安心・安全をお届けしているのです」(竹内氏

「当社の業務内容を話すと『安全』という言葉が頻繁に出てきますが、『リスクマネージメントを行い、リスクを減らす』という表現がその中身をよく表しています」(鈴木氏

品質や安全性が企業の存続を左右する、その重要性から企業ニーズは年々増加。SGSジャパンでも多くの社員が必要とされ、常に社員募集を行っている。

数年先までの採用計画を見据えて十分に広い空間を確保した

以前のオフィスは横浜みなとみらいに立地する高層ビルだった。だが増員を進めている中で館内での増床ができないと分かり、本社移転を検討することになる。

「移転直前はとにかく手狭で視覚的に見通しが悪いオフィスでした。さらに会議室が少なく、数人が集まれる場所も十分にありませんでした」(牧田氏

「今後の経営戦略を考えると人材の採用・増員は継続的な活動となります。そのために数年先までの採用計画を見据えて広めの面積を確保しようと考えました」(鈴木氏

そうして2014年7月、移転に関しての事前調査を始める。

「早々にオフィス仲介会社の三幸エステートさんから色々なビル情報を提案いただきました。しかし条件に合う候補ビルがなかなか見つかりませんでした。そこで考え方を変えてすでに一つの事業部が入居していたビル群の中に集約することにしたのです。空室状況を確認したところ広い面積も確保できることが分かった。そこから細部にわたる条件交渉を行っていきました」(牧田氏

「入居していたのは試験・分析を行うケミカルラボラトリーの部門です。そこと本社との行き来にかかる時間は解決したい問題の一つとなっていました。そこには物理的な距離に加えて心理的な距離があり、社員同士の交流も限定されていました」(鈴木氏

中心部ではないといっても同じ横浜市内。距離的にもさほど離れてはいない。さらにコストメリットも大きい。立地に関して問題になることはあまりなかった。
2014年9月に賃貸借契約を締結し、それから内装についての
打ち合わせが始まる。数社に声を掛けてコンペを実施、10月に発注会社を決める。

「入居までの時間が限られていたので、あえて社内の部門を横断するような大きな移転プロジェクトチームはつくらず、トップダウンのやり方で企画を進めました」(牧田氏

「オフィス構築のアイデアを得るために、2社にお願いして先進的なオフィスの見学をし、相当数の先進オフィス事例を資料で調査しました。三幸エステートさんのWebサイト『先進オフィス事例』も参考にしました」(鈴木氏

常にコミュニケーションが図れるオフィス環境の整備を目指した

「やはり移転後は広くなったというのが率直な感想ですね。私の部署は人員の急増でスペースが足りなくなっていました。今回十分なスペースを確保してもらい、当然オフィス内の移動もしやすくなるし、皆に笑顔が生まれてコミュニケーションも良くなった。スペースにゆとりが出ただけでなく、心にもゆとりが出たような気がしています」(佐々木氏

「旧オフィスでは部門ごとに縦割りの組織を形成していましたので横の連携がとりにくい状況でした。その課題を踏まえて、新オフィスのコンセプトの一つは『動線をつくろう』。常にコミュニケーションが図れる環境の整備を目指しました」(牧田氏

そのため新オフィスでは所々に固定席ではないテーブルや椅子を設置してカジュアルな会話が生まれるようなスペースをつくった。期待通りコミュニケーションも活性化しているという。リフレッシュコーナーも新設。気軽にいろいろな部門の人たちが集まれる環境を提供し、食事だけでなく打合せや休憩にも使用できるスペースとなっている。

「旧オフィスではお弁当を持参してきた社員は空いた会議室やテーブルを探して、食べる場所を確保するのに苦労していましたが、このエリアができてからはゆっくりくつろいでお弁当を食べることができるようになりました。他の部門の社員ともコミュニケーションがとれて、全社のコミュニケーションが良くなっているのが実感できています」(竹内氏

「その他、会議室では誰が使用しているかが分かるように壁のほとんどをガラスにしました。これは社内の透明性の象徴でもあります」(鈴木氏

それではオフィスの特長的な部分について説明しよう。

3階

執務室
執務室

見通しが悪かったという課題を改善。そのため今まであったパーテーションは全て取り外した。これは会社のルールである「書類の片付け」を徹底させるための施策にもなっている。「仕事の手順を良くするためには机の整理整頓から」。これは鈴木氏の哲学でもある。

フリーアドレス席
フリーアドレス席

営業や審査の部署は外に出ることが多いために、SGSジャパンでは初めて固定ではないフリーアドレスデスクを導入した。日ごろ顔を合わせにくい者同士が自然にコミュニケーションをとりやすくするために円卓を用いている。

スタンディングテーブル
スタンディングテーブル

執務室内に設置された立ち席用のテーブル。椅子を取り除いた。要点を突いた簡潔で効率の良い打ち合わせの実施を目的とする。

リフレッシュコーナー
リフレッシュコーナー

執務室の南側と北側の中間点に設けられている。ランチだけでなく休憩などにも自由に活用される。新たに設置した各種自動販売機やオフィスグリコなどは、社員同士のマグネット効果の誘引という役割も持っている。

会議室
会議室

部屋ごとに色を変えてアクセントを付けている。プロジェクタの映像を壁に映し出すことも考慮し、全ての壁は白色で統一されている。

コラボレーションエリア
コラボレーションエリア

窓際に集中させたミーティングエリア。集中作業用のコーナーやグループで使用するためのファミレス風コーナーが置かれている。動線を明確に意識させるため、このエリアだけカーペットの色を変えている。

5階

研修室
研修室

研修室・ロビー

お客様を招いての研修が多く行われる。36人用を2室。真ん中に可動式の間仕切り。つなげると席だけでも72席。起立スタイルなら、入居している全社員が入れる大きさとなる。外部施設を求めることなく自社内に全社員が集まれる場所を確保できるようになった。その横には、研修参加者用のウエィティングエリアも用意している。

執務室

セキュリティで守られた執務室。総務・人事部門などの管理本部エリアとなる。その他、透明なガラスで囲まれた社長室や役員用会議室が配されている。

働く環境を向上させる。それが生産性の向上につながる

新オフィスでの改善部分についてもう少し説明を加えていこう。
まず会議室。旧オフィスでの使いにくさから新たな機能が追加された。

「今までは、少ない会議室を社員間で取り合う状況が続いていました。そのため "部屋を使用するための調整" という無駄な時間を費やしていました。それでPC上で予約の入力や確認ができるシステムを構築したのです。会議室扉の表示プレートともリンクしており、会議室が空いていれば、直接表示プレートから予約を入れることもできます。予約にも確認にも手間が掛からなくなりました」牧田氏

会議室扉の表示プレート

会議室扉の表示プレート

「5桁の内線番号をスマホで全国どこにいてもかけられるようにしました。スマホと固定電話の2つの電話で無駄な時間を使うことが少なくなります。外出の多い一部の社員には固定電話を廃止しました。」(鈴木氏

次なる課題は文書管理だという。

「当社の場合、契約書や審査資料などの重要書類がかなり多いため、どうしても紙での保管が多くなってしまいます。とはいえ個々で保管を続けているようでは、いつまでたっても会社として効率的な管理ができませんし、収納場所が増える一方です。そこで収納場所を一ヵ所にまとめることで収納場所の圧縮、情報のナレッジ化を可能にします。さらにそこに取りに行くことで新たな動線が生まれるという二次的な効果も狙っています」(牧田氏

「まずは見えるところの改善。そして見えないところをなくして行く。それが健全なオフィス運営を創り出し、創造性と生産性の向上につながると考えています」(鈴木氏