- 代の変化に合わせ、チームでの生産性を高めるワークプレイスを提案
- 人と人とが交わる距離感、コミュニケーション動線を検証した物件選定
- 生産性を高め、知識とノウハウを共有してイノベーションを起こす
- クリエイターが輝く環境をつくる舞台装置としての社員食堂
- 人の気持ちを大切に、わくわくしながら働ける環境を目指す
時代の変化に合わせ、チームでの生産性を高めるワークプレイスを提案
日本が世界に誇るコンソールゲーム(家庭用コンピュータゲーム機)の二大タイトル、「ドラゴンクエスト」を開発した株式会社エニックスと、「ファイナルファンタジー(以下FF)」を開発した株式会社スクウェアが合併し、株式会社スクウェア・エニックスとして生まれ変わったのは2003年4月。同年7月より、同社は新宿駅南口(渋谷区代々木)の大規模ビルに本社を構えてきた。
だが、近年はゲームを楽しむ層の裾野が広がり、「FF」シリーズのような重厚長大で美麗なグラフィックを楽しむコンソールゲームのファンだけでなく、幅広いデバイスを通じてゲームを楽しむユーザー層も増えてきた。
「クリエイターは個性のある職人気質のアーティストであり、積極的にコミュニケーションをとることを得意としない人も多く、『匠』たちの個性を活かせる環境が何より求められます。旧オフィス時代はこれらのクリエイターの個性を重んじて、ほとんど個室に近いブース型のワークプレイスが中心でした。しかし、時代の変化に合わせ、ニーズに応じた選択と調整のできる環境を提供し、プロジェクト課題の解決や面白さを追求するアイデアや知恵の閃きを誘発、メンバーやチームがそれぞれに合った活動の場をストレス無く選べるツールや仕組みを提供できる設計も必要になりました。」(岡田 大士郎氏)
求められるのは個々の磨き抜かれた精緻な職人芸だけでなく、幅広い視野からの自由な発想も必要である。そのためには、開発チーム全体がコミュニケーションを密にし、さまざまな角度から議論を重ね、コラボレーションによる相乗効果を生み出さなければならない。そのためには、既存のクローズドなワークプレイス環境は、チームとしてのコミュニケーションが取りにくいという弊害があったという。
「一つのタイトルを開発するチームは、100人という規模に達することもあります。しかし、この人数が一堂に会する場所を確保するのが、旧オフィス時代はきわめて困難でした。大会議室はありましたが常に予約が一杯で、全体ミーティングを思い立ってから実際に開催するまでに3日も4日も経過してしまうような状況でした」(岡田氏)
この間、チームの何割かは事実上作業がストップしてしまうことになり、生産効率の低下を余儀なくされていたという。
「ゲーム開発費の大半は人件費です。100人のチームとなれば、1日1日のコストメーターは膨大なものとなります。思い立ったらすぐに集まり、ディレクターからの指示を受けたり情報を共有したりできる環境を構築することがポイントとなります」(岡田氏)
岡田氏は、2005年から2007年まで同社の米国現地法人であるSQUARE ENIX, INC.のCOOとして赴任しており、現地の大手ゲーム会社などとも接点があった。当時、米国流の先進的なモノづくりの取り組みに触れてきた経験から、帰国後、岡田氏は本社経営陣に対して旧オフィスの現状についての問題提起を行なう。そして本社移転を軸とした約30項目からなる改善案を提案したという。
人と人とが交わる距離感、コミュニケーション動線を検証した物件選定
時代の流れとともに、働く場を積極的に変えていかなければならない――という岡田氏の改善提案は、経営陣にはおおむね好意的に受け入れられた。しかし、現場のクリエイターたちからは当初、慣れ親しんだ環境の変化を嫌ってか、抵抗もあったという。本社移転プロジェクトは、岡田氏が帰国した2007年からスタートしたものの、実際に移転が行われたのはそれから5年後の2012年9月のことであった。その間、別の立地を移転先とする計画もあったが、様々な意見があり一度白紙に戻った。
「一度ふりだしに戻った形ですが、お陰で計画を練り直す時間ができました。そこで、それまでに積み上げてきた取り組みを基に、人間工学的な視点や行動心理学的な視点から、どのような『場』をつくることが生産性を高めるか、科学的に研究していきました」(岡田氏)
たとえば、人間工学的にストレスを最小限に抑える椅子はどういうものか。照明でいえば、それぞれの作業に適正な照度は。色彩でいえば、壁や床、デスクやパーティションなどはどんな色にすれば生産性を高めることができるか。こうした人間の五感に属する要素について検討を重ね、コンセプトを固めていったという。
「立地やコストなどの諸条件から絞り込んだ候補ビル3棟のうち、このビルは基準階床面積が約1,800坪と最も広く、それも決め手の一つになりました」(岡田氏)
広いだけでなく、フロアの構造上も、エレベーターホールが外部コアに位置し、中央には情報共有に適した大規模空間がある。行動心理学の視点から人と人が交わるための距離感を考え、バーティカルなコミュニケーション動線を検証した結果、最適な構造を備えていたのは、当時まだ建築中のこのビルだけであった。
移転プロジェクトは2011年11月にキックオフし、翌2012年4月にはビルが竣工を迎える。竣工と同時に内装工事に取りかかり、同年8月から9月にかけて移転作業が行われた。同ビルのオフィステナントとしては入居第一号であった。