チームラボ株式会社

2013年8月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

コミュニケーションを活性化させる仕組みが
たくさん詰まったオフィスは生産性を向上させる。

新しいデジタル情報の可能性を求めて2001年3月に創業したチームラボ株式会社 。その中で 、確 立されたオフィス論でオフィスづくりを展開しているチームラボアーキテクツ株式会社の代表 河田将吾氏に、お話を伺った。

チームラボ

プロジェクト担当

河田 将吾氏

チームラボ株式会社
取材者:チームラボアーキテクツ株式会社
代表 
河田 将吾氏

はやわかりメモ

  1. 新しいデジタルの可能性を求めてチームラボが生まれた
  2. 曖昧なプロセスの共有を大事にする
  3. ソフトを考えながらハードをデザインすることの必要性
  4. 個人の主観的な思いを発言するための「場」を提供
  5. 誰に言われることなく自発的に行動を起こす理想的な空間
  6. クリエイティビティとインテリジェンスが上がることで生産性が向上する
  7. 自社アート作品やプロダクトが飾られる美術館のようなチームラボのオフィス
  8. 今後も自社の作品に囲まれた美術館のようなオフィスづくりを目指す

新しいデジタルの可能性を求めてチームラボが生まれた。

「少し前のデジタルの世界は、ブラウザの中で完結していたと思うのです。だけど情報を取得する手段としてはブラウザとマウスがなくてもできる方法もあるかなと。例えば今こうして会話をしていますが、会話中の「うなづき」や「まばたき」、「あいづち」などは、文字情報には表れないですよね。でもこれらも大事な情報です。文字だけの情報にしてしまった時、これらの情報は表面に出てこない。そういった捨ててしまっている情報も取得することによって全く違う環境が生まれるのではと思っています」

そうした新しいデジタル情報の可能性を求めてチームラボが生まれた。創業は2001年3月のことである。東京大学と東京工業大学の大学院生と学部生が集まり文京区内に設立した。その2年後に株式会社に組織変更。そして、何度か文京区内で移転を繰り返した後、2004年7月に本郷に。それが移転前の旧オフィスになる。

「1フロア120坪の9階建のオフィスビルでした。当時はそのビルの2フロアを使っていたのですが、次第に面積が足りなくなり近くにいくつもの分室も借りていました。特にビル自体に大きな不満があったわけではありませんが、さらなる増員や分室との統合を理由に移転を決めたのです」

2012年2月に旧オフィスからわずか徒歩5分程度しか離れていない現在のビルに移転を行った。現オフィスが入居するビルは1フロア105坪の7階建で、そのうちの4階から7階を借りている。4階、5階、7階は普通の執務フロアとなっており、中間層にあたる6階にミーティングスペースを設けている。

曖昧なプロセスの共有を大事にする。

「オフィスの中で、『結論から先に言え』みたいな場面があります。だけど実際はそこに至るプロセスが重要なわけで。何でそう思ったのかを知ることで全然違う結論が導き出されることもある。世代を超えてそれを共有することで新しいサービスが生まれるかもしれない。例えば、一言だけで説明すると、あの『モナリザ』は、『微笑んでいる女性の絵』という説明になってしまうわけです。でも実際はそこに行き着くまでの物語やプロセスがあってはじめて成立していると思うんです。人によって共鳴する部分も違いますし」

このような考えから、色々と曖昧なプロセスを共有できる会社を目指していると語る。

「チームラボは、とても曖昧なプロセスの共有で成り立っている会社です。アメーバーみたいな組織です。アメーバーというのは一つの生命体ではあるけれど、他のアメーバーともすぐに共存できる。我々も一人が全部を管理しているのではなく、個々のマネジメントで組織を運営しています」

ソフトを考えながらハードをデザインすることの必要性。

「チームラボはデジタルの会社であって、ソリューションやソフト面をつくる会社。チームラボアーキテクトはその外側やハード面を制作する会社です。内装設計やデザインも含まれます」

そしてチームラボアーキテクツ誕生の経緯をお話しいただいた。

「一昔前は、外側と内側のデザインって完全に分離してつくっていたと思います。最初に外側のデザインをつくり、それに合わせて中身を制作するといったような。いわばハード重視だったわけです。携帯電話を思い浮かべると、ハードのデザインのイメージしか覚えていない。ですが、iPhoneになってからは違いますよね。みんな画面のデザインを覚えている。ちょっと角がとれたアイコンバーとか。すごい変化です。画面が変わるだけで全体のデザインさえ変わってしまう気になりますから。現在は、それぐらいハード面とソフト面が融合した時代になったわけです。つまり今はハードのデザインだけでは通用しないのです。ソフトがハードにものすごい影響を与えている。ソフトを考えながらハードをデザインすることに必要性を感じて、チームラボアーキテクツが誕生しました。といっても、チームラボは300名くらいいるのに対して、チームラボアーキテクツは、まだ4~5名ですけど」

個人の主観的な思いを発言してもらうための「場」を提供。

「執務フロアは固定席になっています。各自プロジェクトチームごとにPCを持って固まっています。昔からプロジェクトごとに集まるというのは絶対的な方針になっていますね。だからプロジェクトが終わったら解散。その分、頻繁に席替えを行っています。プロジェクトを掛け持っている人は、いくつもの席を持っています。完全なるペーパーレスを推奨している会社だからこそ可能なのかもしれませんね。必ず紙の資料はスキャニングして共有しています。『情報共有』については、かなり重要視しています」

新オフィスになって、社員の声に耳を傾けてみると、以前は2フロアだったのが、さらに4フロアに分かれたことの不満はある。ただし総合的に見ると満足度はとても高い。たまたま近くを通った社員に今のオフィスの感想を聞いてみた。

「やっぱり6階のミーティングスペースは最高ですね。ここはテンションが上がります」

「昔は、マーティングがとても重要でした。アンケートを実施すると、80%以上の良い回答を重要視していましたよね。でも今は『8 0 %のなんとなく好き』よりも『20%のめちゃめちゃ好き』の方が重要な気がします。ですから、何か新しい製品を開発する人は、その人個人の趣味主観を大切にしてもらい、自分の主観的な思いを発言してもらいたい。そのために何でも発言しやすい場づくりが必要だと思っています。このフロアをつくった時はそんなことを意識しましたね」

床は海、砂浜、お花畑のイラストが一面に広がる。壁は黄色で塗られ、チームラボのアートやプロダクトが美術館のように飾られている。この色彩戦略も社員同士のコミュニケーションを活性化するための仕組みの一つとして取り入れられている。

「6階の壁の色ですが、コーポレートカラーだから黄色を選んでいると思われがちですが、実際は短期的な集中に最も適している色が黄色ということで選択しました」

その分、執務室に関しては業務に集中するためになるべく色を抑えたデザインにしているという。そしてトイレや給湯などの業務とは別の目的で席を離れたときに、お花畑が見えるようになっている。

「結構、色によって人の感情が左右されるものです。話しやすい色、集中しやすい色、テンションが高くなる色など。ですから業務の内側と外側で極端に色の強弱を付けています」

誰に言われることなく自発的に行動を起こす理想的な空間。

「チームラボのオフィスコンセプトは、『チームラボをディズニーランドにしよう!』です。ディズニーランドって色々なアトラクションがあって、その世界はシームレスに繋がっていますよね。あの空間の中では、ごく自然にミッキーマウスの耳を付けている人がいっぱいいます。その光景は、ディズニーランドの中だけ。他の場所であれだけの人数が耳を付けていることはないわけです。でも、誰も付けろって言っているわけではない。ルールを定めているわけではなく、なんとなく耳を付けたくなるような空間をつくっているわけです。それってすごく重要だと思いませんか。その空間に入ると、誰に言われることなく自発的に行動を起こす。まさに理想的な空間ですよね」

クリエイティビティとインテリジェンスが上がることで生産性が向上する。

チームラボでは「空間を通して情報社会のための組織の生産性とクリエイティビティが上がるオフィスをデザインする」をコンセプトに掲げている。

「クリエイティビティを上げるというのは、コミュニケーションをとることと密接に関係があると思っています。例えば、チーターの足の速さはおそらく数十年前から変わっていないですよね。だけど人間は年々世界記録を更新している。それはただ走る練習を繰り返しているからではありません。上げる脚の高さや角度などをいろんな方とコミュ二ケーションをとり、情報交換をしているからです。クリエイティビティというのはその部分です」

「もう一つのテーマにインテリジェンスを上げるというのがあります。仮に、突発的な問題が生じて、上司の判断を受ける時間さえもない。そんなことがあったとしましょう。その時に、自分で考えて自らの判断で正確な結論を出せる能力。その能力を僕らはインテリジェンスと呼んでいます。わかりやすく説明するために少し程度が低い例になりますが、オフィスの床にゴミが落ちていたとしましょう。普通は誰の判断も仰がず拾って捨てますよね。つまり会社のルールとして設定しているわけではありませんが、自ら判断して行動しているわけです。それが自発的な社員が全くいない会社でしたら、『ゴミが落ちていたら拾って一番近くのゴミ箱に捨てなさい』といったことまでもルール化する必要が出てきます。つまりインテリジェンスが高い会社ほど、社内のルールを減らすことが可能になるのです」

「クリエイティビティとインテリジェンスが上がることで、コミュニケーション能力を高め、自発的な行動力を向上させることができる。自然にそういった方向に持っていけるような空間づくりを心がけています。結果として、それが生産性向上につながると信じています」

自社アート作品やプロダクトが飾られる美術館のようなチームラボのオフィス。

それでは最後にチームラボのオフィスを紹介しよう。ここで使用しているプロダクトは、チームラボのオフィスのためだけにつくられたものではない。全てオリジナルで、チームラボのサイトから購入可能だそうだ。

5階受付 FaceTouch

5階エレベーターを降りると壁に取り付けられたタッチパネルが目の前に。そのパネルには、全社員の顔写真が表示され、お客様が約束している社員を選ぶと、社内のチャットシステムで担当者を呼び出すことができる。

顔写真の他にテキスト情報で各人のプロフィールを見ることができ、待っている間に社員についての情報を得られる。お客様との会話をほんの少しスムーズにするために有効な受付システムとして開発された。

5階受付 FaceTouch

今後も自社の作品に囲まれた美術館のようなオフィスづくりを目指す。

チームラボのオフィスは、常に付け加えが続けられている。机や椅子の配置を変えたり、ディスプレイを追加したり。新しいアートやプロダクトが完成すると、6階のスペースに展示されるという。

「これからも自分たちのつくった作品に囲まれた美術館のようなオフィスを目指します。オフィスに遊びにきてくれた人がアート作品を鑑賞したり、プロダクトで遊んだり、チームラボのオフィスそのもので楽しんでもらえたらいいなって思っています」

5階執務室 茶屋

全ての執務フロア(4階・5階・7階)の同じ位置に設置されたラボカフェと呼ばれる休憩室。カメラと音声を繋いだディスプレイが置かれ、フロアが離れた社員同士がコミュニケーションをとっている。

「なんとなく顔を見ると思いだすことってありますよね。顔を見て、思い出して、あらためてミーティングをしようと。そんな流れになることを期待して用意しました」

6階 チームラボハンガー

ハンガーにかかった商品を取るとセンサーが作動、ディスプレイに商品情報の写真や動画が表示される。
6階 チームラボハンガー

6階 ミーティングスペース

「ミーティングスペースは、いたるところにチームラボがつくったアートやプロダクトを展示して、見て回れるようにしています。また、床は、木のパーツを集めた森や、花のパーツを集めたお花畑、波のパーツを集めた海など、ドラクエのマップをヒントにカーペットをつくり、森や海やビーチがある世界をつくることで、作品を見て回りながら森から海、海からお花畑を巡って世界を冒険できるようにしています。その時になりたい気分に応じて、お花畑や海で会議が行われます」
6階 ミーティングスペース

6階 チームラボカメラ

来訪したお客様とのコミュニケーションを高められるカメラ。その場で背景を選び写真撮影。

撮影画像をマンガ調に自動加工後、チームラボのFacebookにアップロードされる。開発当初から集客に貢献する製品として注目され、店舗やイベントスペースからの引き合いが多いという。

6階 チームラボカメラ


6階 やわらか茶室

上座、下座といった本来の茶室の思想を無視した茶室。
チームラボの企業
理念である「フラットさ」を表現している。四方の壁がゴムでできていて、どこからでも入ることが可能。床は2畳の畳が敷いてある。
6階 やわらか茶室

6階 ブロックチェア

組み合わせ自由なブロックチェア。通常時は一人用の椅子だが、組み立てることでソファや壁に変身する。
いろいろな色が用意さ
れており、華やかな空間を彩る重要な要素となっている。
6階 ブロックチェア

6階 めもですく

6階のいたるところに置いてある、天板が分厚いメモ帳になっている机。
その場で思いつ
いたことを書きながらミーティングを行い、書き込んだ内容は資料として切り取って持ち帰る。メモ部分は特注で制作しており、無くなったら追加補充できる。
6階 めもですく

6階 工作室

今回の移転で6階ミーティングスペース内に新設された。

今まではプロダクトの開発をしてもブラウザの中だけでしか検証ができなかったが、今度は実物大での検証が可能になる。開発の大きな戦力になっていると社員からの評価が高い。実際に電子工作的な仕事も増え、仕事の幅が広がったという。

6階 工作室