テルモ株式会社

2025年10月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

目指したい「良い仕事のあり方」への進化を
実現するためにオフィスにABWを導入

日本を代表する医療機器メーカーのテルモ株式会社。「医療を通じて社会に貢献する」を企業理念に掲げ、世界160以上の国と地域で事業展開をしている。同社は20257月に、働き方のさらなる進化とグローバル本社としての機能強化を目的に、大規模オフィス移転を実施した。新オフィスには、多種多様な「働く場」を構築し、モチベーションの向上やコミュニケーションの活性化を図っている。今回の取材では、移転プロジェクトの背景やオフィスコンセプト、具体的なオフィスの新機能についてお話を伺った。

下村 和恒 氏

テルモ株式会社
コーポレートアフェアーズ
プロパティ・ファシリティ
シニアスペシャリスト

下村 和恒 氏

川村 章子 氏

テルモ株式会社
コーポレートアフェアーズ
プロパティ・ファシリティ
主任

川村 章子 氏

藤村 理

三幸エステート株式会社
国際営業部


藤村 理

Contents

  1. 国産体温計の製造・販売から100年以上にわたって日本の医療を支えてきた
  2. 旧東京オフィスの課題は「BCPの機能強化」と「コミュニケーションの活性化」だった
  3. オフィス移転を前向きに検討しながら時間をかけて議論を重ねた
  4. デザインモチーフを「循環」とし、一カ所に留まらない働き方を目指す
  5. 新たな働き方を促進するためにABW環境を取り入れた
  6. 今後も働き方や必要性に応じてオフィスのあり方を考えていく

エントランス

エントランス

国産体温計の製造・販売から100年以上にわたって日本の医療を支えてきた

テルモ株式会社は1921年の設立以来、「医療を通じて社会に貢献する」という不変の企業理念のもと、時代の変化や医療現場のニーズに対応した製品やサービスの提供を通じて、患者さんや医療従事者への貢献に力を尽くしている。現在は、カテーテル治療、心臓外科手術、薬剤投与、糖尿病管理、腹膜透析、輸血や細胞治療などに関する幅広い製品・サービスを提供している。ちなみに社名のテルモはドイツ語の「Thermometer(体温計)」が由来だ。

旧東京オフィスの課題は「BCPの機能強化」と
「コミュニケーションの活性化」だった

同社は長年にわたり渋谷区幡ヶ谷に本社を置いている。その本社からほど遠くない西新宿にグローバル本社機能を有する東京オフィスが設けられていた。

「旧東京オフィスは、西新宿を代表する大規模複合ビルに入居していました。しかし、入居から約10年が経過する中で、『次の10年、20年を見据えたグローバル企業の本社機能』を強化するために、より高度なBCP環境・セキュリティを有するオフィスビルへの移転と、これまでの働き方から、目指したい『良い仕事のあり方』への進化をするべきとの強い要望が社内の至るところから出ていました」(下村氏)

さらに、同社ではアソシエイト*同士のコミュニケーションをいかに活性化させるかも大きな課題となっていた。

「旧東京オフィスへの入居当時は、連続階で3フロアを使用していました。一番下のフロアを応接専用としていましたが、事業計画が進み、採用も進んだことで応接専用の下のフロアも借りることに。いくら連続階とはいえ4フロアの使用となると、フロアやエリアが分断されることで、部門を超えたコミュニケーションを取ることが難しくなっていました。複雑化している医療課題の解決に向けて、ソリューションビジネスをさらに成長させることが懸案事項となっていました」(川村氏)

*テルモグループでは、社員をともに働く仲間として「アソシエイト」と呼ぶ。

オフィス移転を前向きに検討しながら時間をかけて議論を重ねた

「本格的に移転プロジェクトを検討することになりました。定期的に色々な視点でまとめられた資料をいただいていたこともあり、三幸エステートの藤村さんにご相談しました」(下村氏)

「すぐに条件に合った候補ビルリストを作成してお持ちしました。2,000坪以上の面積、連続階で1フロア面積が広い、先進のBCP機能を有している。全ての条件に適した空室ビルは少なく、かなり限られた中でのご提案になりました」(藤村)

「グローバル本社機能のオフィスに求められるビル性能だけではなく、イベントホールや貸会議室などの周辺のビジネス環境、そして交通利便性を備えた立地条件も重視していました。それぞれの物件の特性に加え、周辺環境に対する丁寧な提案は大変参考になり、おかげで物件の絞り込みを進めることができました」(下村氏)

そうして条件をクリアした数棟を実際に内見する。その結果、港区の大規模オフィスビルに絞り込まれた。そこを選んだ理由の一つは、エリア一体の「有事の際に逃げ込める街」「賑わいの街づくり」「世界に向けて発信する都市」といった開発コンセプトだったという。

「テルモさんが求めていた『グローバル本社機能』のイメージに最適なオフィスビルでしたので、自信を持ってご紹介しました」(藤村)

「最終的なビル選定を進める中で細やかに契約を詰めていただき、ビルオーナーとも良好な関係を構築していただけたことも高く評価した点です」(下村氏)

「使用面積は、旧東京オフィスとさほど変わっていません。約2,500坪の面積を約1,200名で使用しています」(川村氏)

そうして、地下鉄「虎ノ門ヒルズ」駅と一体となった超高層オフィスビルの連続階で、契約が締結された。

デザインモチーフを「循環」とし、一カ所に留まらない働き方を目指す

入居ビルが確定したことで、具体的なオフィス構築フェーズに進む。

「私は20244月から移転プロジェクトに参加しましたが、まずアソシエイトのワークプレイスとワークスタイルに関する事前アンケートを実施しました。『現在のオフィスについての課題』『今後の働き方への要望』といった設問を用意しました。移転を公表する前だったため、移転を前提としたアンケート内容であると伝えることができない状況ではありましたが、そのおかげでフラットな意見を聞けたと思っています」(川村氏)

その後、社内公表を経て各部門から選出された代表者でワークショップを行ったところ「見えない垣根があって、部署を超えたコミュニケーションが取りにくい」といった組織の声が多かった。

「旧東京オフィスでは、最初こそ部門内でのフリーアドレスを提唱していましたが、そのメリットが伝わりきらず次第に固定席化になりつつありました。同じ轍を踏まないように、今度は意識改革から始める必要がありました」(川村氏)

新オフィスのコンセプトを考えるため、ワークショップチームを「チェンジマネジメント(働き方改革)」と「ファシリティ(引越し)」の2つに分けた。両チーム共に、「より良いテルモにするためには」「テルモの可能性を最大限に引き出すには」といったポジティブ要素をコンセプトづくりの前提とした。加えて、代表者インタビューによって、「ワクワクする場所」というキーワードが導き出された。そうして生まれたのが、以下のオフィスコンセプトとなる。

"医療現場・患者さんの「信頼」に応え価値創造への「挑戦」を実現する場"

① 自立・自主性の醸成
② 「働き方」「働きがい」の両立
③ グローバル・OneTerumo
④ 自由闊達なアイデアとイノベーション
⑤ 「らしさ」とワクワク

その一方で、デザインコンセプトについても議論を重ねた。

「一カ所に留まらない働き方を目指すことで自然なコミュニケーションを生み、今までになかったアイデアの創出を目指そうと。そんなモチーフを具現化したキーワードが『循環』でした」(川村氏)

新たな働き方を促進するためにABW環境を取り入れた

それでは、新オフィスの特徴的な部分を紹介していこう。受付フロアは28階となる。このフロアには、オフィスエントランス、応接室、セミナールームなどの外部対応を目的とした機能を集約している。

 受付

受付

応接室

応接室

エントランスは白を基調にした落ち着いた色合いで統一している。エントランス左手の待合スペースには大画面モニターを配置。同社のPR動画を流している。その反対側には、外部セミナーや説明会にも対応できる「Multi Room」。通常は、広々としたミーティングスペースとして使用しているが、ガラスの間仕切り壁を組み合わせることで100名前後が使用可能なクローズドのイベントスペースに早変わりする。

「イベントの内容まではわからないまでも、全体の活気が伝わるようなガラスフィルムを採用しています。移転当初は機密性を心配する声も有りましたが、今では稼働率の高い空間となっています」(川村氏)

Multi Room

Multi Room

そして連続フロアとなる29階が執務エリアとなる。本フロアには、新オフィス最大の特長である「ワークカフェエリア」を配置している。

「旧東京オフィスはソロワークがメインでしたが、新オフィスはABWを採用して多様な働き方を推進しています。中階段で上階とつながる『ワークカフェエリア』は、新オフィスのコンセプトを象徴する代表的なエリアになっています」(下村氏)

執務エリア

執務エリア

ワークカフェエリア①

ワークカフェエリア①

ワークカフェエリア②

ワークカフェエリア②

ワークカフェエリア ファミレス席

ワークカフェエリア ファミレス席

「このエリアをつくったことで、部署を超えたコミュニケーションが活発になっています。吹き抜けによる開放感がイベント開催に適しているようですね」(川村氏)

具体的なイベントの内容については、各部門のみならず役員からもアイデアが持ち込まれているという。今では、グループ会社のお披露目会やプレ発表会、グローバルな業績貢献者に対する表彰式などが行われており、旧東京オフィスでは閉鎖された空間で実施していたイベントがアソシエイトへオープンに可視化され、他部署の活動を感じられる環境となった。

旧東京オフィスにも設けていた「配信スタジオ」は、移転を機により本格的な仕様変更を行った。

「ここでは、医療従事者による講演の模様などを配信しています。レコーディングスタジオを設置したことで、指示出しなどの細かい進行ができる配信スタジオとなりました。移転後早々に講演会も実施され『お客様との繋がりを強化する』という効果も生まれています」(下村氏)

「単に椅子や机を並べるだけではなく、カフェ風のソファ席、昇降デスクのあるソロワークエリア、超ワイドモニターを設置した集中エリアといった働き方に合わせた多様な機能を設けています。先ほどの『ワークカフェエリア』は、どちらかというとリラックスやコミュニケーションを目的としていますが、新設した『コラボレーションエリア』は、他部門との交流やブレインストーミングなどのアイデア創出に適したエリアとなっています」(川村氏)

コラボレーションエリア

コラボレーションエリア

今後も働き方や必要性に応じてオフィスのあり方を考えていく

移転後に、近隣の貸会議室を使用して内定式を行ったときのこと。内定式終了後に、スムーズな流れでオフィス見学会まで行うことができた。その際、オフィス周辺にビジネス機能が集積していることのメリットを再認識したという。

「今回の移転にあたり、多くの仲介会社からたくさんの情報をいただきました。結果的に、藤村さんお薦めのこのビルに決めて本当に良かったと思っています。当社が求めていた移転条件通りのご提案でした」(下村氏)

今後のオフィス運営に関しては、各部門から選出されたメンバーで毎月議論を行いながら働き方の変化に合わせ対応していくという。

「オフィスは、周辺環境や働き方、働く人の適正に応じてつくることが重要だと思っています。このオフィスは虎ノ門だからこそ成立するデザインです。好評だからといって、同じ仕様をそのまま他の拠点に流用することは考えていません」(下村氏)

「今回、働き方が大きく変わったこともあり、『オフィス使い方マニュアル』を作成して配布しました。現在、ようやく少しずつ周知されてきたという段階です。最近は、当初の想定以上にABWの働き方に順応していると感じます。移転前と比べると、個々の意識に変化が見られるようになりました」(川村氏)

「アソシエイトの皆さんも、フロアを中階段で繋いだ一体空間のオフィスで働くことなど考えてもいなかったと思います。この中階段が、今までにないスペースと動線を生み出しました。より多くの交流を生むこのオフィスはワクワクを感じながら働きやすさと働きがいを高め、グローバルでOneTerumoを育むきっかけになっていると感じます。これからも、想像を超えた新たな光景が見られることに期待しています」(下村氏)

テルモ株式会社

北里柴三郎博士をはじめとする医師らが発起人となって設立されたテルモ株式会社。2025年、新たに企業の目指す方向として「Our Promise」が制定された。これは、患者の声に真摯に向き合い、社会に対して長期的に貢献していくという同社の方向性を示したものだ。より良い未来を切り開くために、同社の挑戦はさらに続いていく。


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