トリップアドバイザー株式会社

2016年3月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

米本社のグローバルスタンダードを満たし一歩先行する日本法人オフィス

アメリカ・マサチューセッツ州に本社を置くTripAdvisor, Inc.の日本法人であるトリップアドバイザー株式会社。同社は、全世界数億人もの旅行者(=ユーザー)からの生の声や、旅に関するさまざまな口コミ情報を掲載する旅行サイトを運営。ホテルの予約サイトとも連携して各旅行者に最適な旅の計画と予約をサポートしている。2015年6月に恵比寿の超高層ビルへ移転した同社の本社オフィスについてのお話をまとめた。

プロジェクト担当

日向 里佳氏

トリップアドバイザー株式会社
オフィスマネジャー

日向 里佳氏

ブレイクスペース

ブレイクスペース

はやわかりメモ

  1. 会社のイメージに合った立地 働きやすい環境にこだわった物件選定
  2. 海外のスタンダードに合わせつつ、社員の要望に応えるオフィスづくり
  3. "旅" をイメージさせるエントランスと、機能と遊び心を備えた内装
  4. 運動不足の解消など、社員の健康管理に配慮した設備と施策を導入
  5. お客様を呼びやすい、社外に良いイメージをアピールできるオフィスを構築

会社のイメージに合った立地 働きやすい環境にこだわった物件選定

2000年にアメリカ・マサチューセッツ州に誕生したTripAdvisor, Inc.は、旅行者からの口コミ情報を掲載するWebサイト運営を通じて、旅行者一人ひとりの個性や好みに合わせた最適な旅をサポートしている。同社のWebサイトは、現在では48の国々と地域、28ヵ国語に対応しており、月間ユニークユーザー数3億5,000万人、620万件以上のホテル・レストラン・観光名所に3億2,000万件以上の口コミ情報を掲載する、世界最大の旅行サイトとなっている。日本法人であるトリップアドバイザー株式会社は2008年に開設され、2015年6月、渋谷区恵比寿の超高層ビル内に移転した。

「当社では旅行者の皆様を『ユーザー』、航空会社様、宿泊施設様、観光施設様、OTA(Online Travel Agent)様、行政機関様方を『パートナー』と呼称しております。ユーザーからの投稿は、当社の口コミのガイドラインに従って審査させていただいており、悪意ある誹謗中傷などのガイドラインに違反する投稿を除いて、原則として投稿された口コミは一切編集などを行わずに掲載しております。私たち日本法人では、約30名のスタッフが在籍し、Webサイトの管理やアップデート、広告展開、口コミ投稿内容のチェックなどを行っております」

以前は恵比寿駅西口にオフィスを構えていた。しかし事業拡大に伴い手狭になってきたなどから、2014年5月より移転先を探し始める。最終的に同エリア内での移転となるのだが、必ずしも恵比寿という立地にこだわりがあったわけではないという。

「あくまで会社のイメージに合った立地、ということで候補物件を探しており、働きやすい環境にこだわった結果の選定です。当初は目黒駅前のビルが第一候補でしたが、残念ながら契約に時間がかかってしまい入居できませんでした。といっても、現ビルへの移転は結果的には最善の選択だったと思っております」

物件選定や契約に時間がかかったのは、アメリカの本社にあるグローバル事業部との二ヵ国間のやりとりを必要としたためだ。時期的にも、ちょうどオフィス市況が活況を呈し、空室数が激減して人気のビルでは競争が激化しており、現ビルにしても2016年2月現在は満室稼働となっている。移転先候補は物件データから数10棟のビルをリストアップし、さらにそこから絞り込んで、実際に現地に足を運んでの内見も重ねていったという。

「新橋や汐留、六本木近辺のビルも検討しましたが、やはり会社のカラーに合わないのではないかという判断でした。海外支社、本社と時差がある中で、毎週火曜日の深夜から定例会議を約半年間続けてきました。2014年11月にこちらの物件で決定し、12月に契約。そこからすぐに内装工事に取りかかりました。内装はローカルのデザイン会社様との共同で進め、2015年6月の移転ギリギリまでさまざまな苦労がありました。最終的にはデザイン会社様をはじめ、多くの関連会社の皆様のご協力のおかげでなんとかスケジュールを守ることができました」

海外のスタンダードに合わせつつ、社員の要望に応えるオフィスづくり

新オフィスづくりにあたって、アメリカ本社からは「TripAdvisor, Inc.のグローバルスタンダードに合わせたオフィスとすること」との条件が課せられた。旧オフィス時代には同社のグローバルスタンダードを満たしていなかった。

「確かにIT企業にもかかわらず、旧オフィスには専用のサーバルームもなく、セキュリティに関しても本社のスタンダードからは程遠いものになっていました。面積も約80坪と手狭で会議室も3室しかない。社員からは毎日不満の声があがっていました」

そこで、今回の移転に際しては全社アンケートを実施し、「新オフィスに欲しいもの」「必要なもの」をあげてもらったという。社員の要望としては、会議室不足を訴える声が多く、これは優先的に採用された。その他、細かい要望に関しても一つひとつ精査し、ビル自体の施工条件と合わせて、何が可能か、何が不可なのかをチェックしていった。

「実は広いパントリーをつくる際に『キッチンが欲しい』という声もあり、これはできれば実現したかったのですが、残念ながらビルの構造上無理だということがわかり、泣く泣くあきらめました」

パントリーとは、一般に「食料品貯蔵室」「食器室」「配膳室」を意味するが、同社のケースではガスコンロなどを常設していない簡易キッチンを指す。同社のパントリーには、最大50名程度収容できるブレイクスペースが付設しており、エントランスと並ぶ新オフィスの象徴的存在となっている。ここでは、毎週月曜日に全社員参加による会議が行われ、その後ケータリングサービスによるランチが振る舞われる。

「周辺に手頃なカフェなどが少ないため、本社のポリシーでもある食べ物や飲み物の充実を図るという意味でも重要です。以前は、食事を振舞うイベントが月に1回程度行っておりましたが、移転後は毎週のランチケータリングをはじめ、毎月テーマを変えて小さなオフィスイベントを定期的に行っており、今後も継続する予定です。この場所を社員同士の新しいコミュニケーションや休息の場として活用してもらうためにも、良いシステムであると思っています」

"旅" をイメージさせるエントランスと、機能と遊び心を備えた内装

エントランス全景

エントランス全景

新オフィスのビジュアル上の最大の特長となっているのが、スバル360(富士重工業株式会社が開発し、1958~1970年にかけて生産した国産軽自動車の代表的傑作)が鎮座するエントランスだ。車体はもともとオフホワイトであったものを、コーポレートカラーに合わせてイエローに塗装し直されている。ボンネットの上には、年季の入ったアンティークデザインのトランクが積まれている。これは、宮崎駿監督のアニメ映画「ルパン三世 カリオストロの城」をイメージしたという。

「エントランスにクルマを置こう!と、アメリカ本社の上席のアイデアでした。クルマのドアは開閉でき、運転席に乗り込んで記念撮影されていかれる方もたくさんいらっしゃいます。海外のTripAdvisor, Inc.のオフィスでは、エントランスに "旅" をイメージさせる造形物を配置しているところが多く、たとえばロンドンのオフィスではエントランスに飛行機の翼のレプリカが置かれています。また、シンガポールのオフィスでは当社のマスコットキャラクターであるフクロウの『オーリー』の顔をガラスの壁一面に立体的に反映されるようにデザインが施されています」

エントランスの床には高速道路のように3本の矢印が描かれ、その末端には「WORKSPACE」「RECEPTION(受付はこちらです)」「MEETING」の文字が並列表記されている。正面に透明ガラス壁で仕切られたレセプションルームがあり、ガラスには同社のロゴが掲げられている。ドアの傍らにはアンティークのガソリンスタンドの給油機が設置され、ここにiPadを利用した受付システムが組み込まれている。

「このiPadによる受付システムに関しては、海外に先駆けてまず日本オフィスで導入しました。画面上でアポイントの担当者を名前で検索して、直接呼び出すことができます。当初はiPadのみの予定でしたが、操作に慣れていないお客様もいらっしゃるので、後から電話の受話器も取り付けることにしました」

なお、iPadの端末は全会議室に付属されており、受付対応だけでなく、会議室の予約状況確認や予約などの操作にも活用されている。会議室はエントランスの左右に配置されており、向かって右手に並ぶ会議室には、「Fuji」「Yuzu」「Sakura」「Wasabi」といった、日本らしさを象徴する名称がつけられている。デザイン先行のため、各室は内装に合わせたネーミングとなり、たとえば淡いブルーの部屋は「Fuji」、淡いオレンジの部屋は「Yuzu」、淡いピンクの部屋は「Sakura」、淡いグリーンの部屋は「Wasabi」と名づけられた。

「この4室は、ビデオカンファレンス設備のある会議室となっています。弊社のグローバルオフィスには日本よりも広いオフィスがありますが、この設備がある会議室は多くて3室しかありません。30名の規模で設備が整った部屋を4部屋も与えてくれたのは、日本のマーケットへの更なる期待があってのことだと感じています」

受付システム

受付システム

大会議室

大会議室

小会議室

小会議室

打ち合わせルーム

打ち合わせルーム

また、エントランス左手のワークスペース側に設置された小会議室には、やや発想の方向性を変えて「Kitty」「Pokemon」といった日本発のキャラクターの名が冠せられている。これもまた、海外で広く知られている日本語の固有名詞という共通項がある。これらの会議室では、機能性と遊び心を両立したデザインが採用されている。

「新オフィスの会議室は大小合わせて7室用意しました。旧オフィス時代は3室だったので、倍以上に増えたことになります。面積は約80坪から約250坪と、3倍以上広くなりました。会議室については、最低これだけの数量と機能が必要だということがあらかじめ決まっていたので、これを第一優先として、その後オフィス全体のレイアウトを確認しつつ動線を設定。ワークスペースやパントリーなどの配置を決めていきました」

新オフィスのオープン1週間前には、社員参加によるオフィス見学ツアーが行われた。初めてここを目にした社員たちの第一声は「広い!」であり、続いて口々に「すごい!」「なにこれ?」といった歓声が上がった。「景色がいいね!」と窓に歩み寄り、眺望を写真に撮影する社員も多かったという。

運動不足の解消など、社員の健康管理に配慮した設備と施策を導入

ボルダリングウォール

ボルダリングウォール

窓からの眺望は超高層ビルならではの魅力であり、季節の変わり目や、朝陽に夕陽、夜景など時間帯によってもさまざまに表情を変え、見る者を飽きさせない。ガラス壁を多用した開放感のある内装デザインとともに、社員の働く環境を快適に保つ効果があるという。旧オフィス時代は窓が一面しかなく、また空調効率も悪かったので席によって暑さ寒さの差が激しかったが、新オフィスではビル自体の設備も新しく、空調効率も格段に向上したと語る。

「働きやすい環境づくりには、社員の健康管理という観点も欠かせません。そのため、オフィスの壁の一角をボルダリングウォールとし、ストレッチができる場所を確保し、室内でも簡単にできる運動設備や、ハンモックなどの休憩設備も導入しています」

ストレッチエリア

ストレッチエリア

ボルダリング(=壁登り)はフリークライミングの一種で、手足だけを使って垂直な壁をよじ登る競技である。本来は自然の岩壁を登るものだが、都市部では人工の壁面にホールド(突起)を多数取り付けた壁で代用されている。近年は、採用する企業も増えており、中にはデザイン上の単なる装飾に過ぎないものもあるが、同社の場合は、成人男性の体重を支えるだけの強度を持った実用的なボルダリングウォールだ。垂直の壁と、傾斜したオーバーハングの壁とがあり、下には転落事故防止のためのマットレスも敷き詰められている。

「初心者に対しては社内のボルダリング経験者が講習を行うなど、実際の運用にあたっては安全対策に努めています。運動不足解消の施策としては、こうした設備のほかに、会社にインストラクターを招いてヨガのワークショップを行ったりもしました」

日常の業務の中でも、長時間同じ姿勢で仕事をしていることで腰や肩を痛めることがある。そこで、同社ではワークスペースにある社員の自席(固定席)以外にも、パントリーに付設したブレイクスペースや空いている会議室など、社内の好きな場所へ移動して仕事をすることができるようにしている。さらに、自席のデスクは、スイッチ一つで天板の高さを自由に変えられる昇降デスクが採用された。

「座りっぱなしで疲れたときには、天板を高くして立ったまま仕事をすることもできます。昇降デスクを探すのに手間はかかりましたが、苦労した甲斐はあったと思います。また、リフレッシュや集中効果のあるバランスボールも導入しました」

昇降デスク

昇降デスク

お客様を呼びやすい、社外に良いイメージをアピールできるオフィスを構築

パントリーを備えたブレイクスペースは、ワークスペースと会議室エリアをつなぐ位置にある。ここにブレイクスペースを配置したのは、社内外とのさまざまなコミュニケーションのきっかけづくりに利用するためだという。パントリーにはコーヒーやドリンク類、各種軽食スナックが充実しており、飲食を楽しみながらリラックスした雰囲気で打ち合わせなどが行われている。

「コーヒーマシンは、エスプレッソとカプセルタイプの2種類用意し、お茶やジュースなどの自動販売機も社員には無料で提供しています。お菓子やドライフルーツ、カットフルーツなども取り揃えており、朝食用のコーンフレークなども常備しています。また、毎月1回、夕方からHappy Hourと称して社内でアルコールを飲む機会も設けております」

フリースペース

フリースペース

こうした環境面の充実も、いわばTripAdvisor, Inc.のグローバルスタンダードであり、海外のオフィスでは、ビールサーバーやワイナリーを備えているところもある。ちなみに、5,000人の社員が勤務するボストン本社では、専任のシェフが常駐し、毎日本格的な料理を振る舞っているという。

「オフィスの坪単価や立地については本社から細かいチェックが入りましたが、デザインに関しては、基本的に私たちのやり方に任せていただけました。営業チームからは『お客様を呼びやすくなった』という声が上がっています。場所もわかりやすく、デザインもどこへ出しても恥ずかしくない。社外にも良いイメージをアピールできるオフィスになったと好評です」