テュフズードジャパン株式会社
テュフズードジャパン株式会社
テュフズードジャパン株式会社
2024年8月取材
※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。
コミュニケーションを活性化させるために
"壁"のないオフィスを構築した
ドイツの第三者認証機関テュフズード社の日本法人であるテュフズードジャパン株式会社。ISO(国際規格)や各国の規格に対応し、幅広い分野で企業や組織に対して評価や審査を行っている。2024年5月、同社はオフィス機能の向上とアクセスの改善を図り、本社を移転。新オフィスは、面積をコンパクトにしながらも、スペースの効率化を図ることで余裕のある「働く環境づくり」に成功している。今回はその移転プロジェクトの全容についてお聞きした。
テュフズードジャパン株式会社
代表取締役社長
アンドレア・コシャ 氏
テュフズードジャパン株式会社
総務部
オフィス アドミニストレータ―
小林 千紘 氏
Contents
- 幅広い分野で企業の安全性と海外展開を支えてきた
- マインドセットをよりポジティブに変える施策の一つとして移転を検討した
- さらなる高みを目指す場所として新築オフィスビルへの移転を決断した
- 「縁側」のコンセプトは、当社が意識していた大事な思いにマッチしていた
- 今までにない機能と開放感を調和したオフィスが完成した
- 従業員同士で顔を合わせる場が多いほど会社の成長につながる
エントランス
幅広い分野で企業の安全性と海外展開を支えてきた
テュフズードジャパン株式会社は1866年から続くドイツの認証機関テュフズード社の事業基盤の下、日本市場における品質・安全試験と認証への需要拡大に応えるために1993年に設立。ほぼ全てのEU指令に対応するノーティファイド・ボディの機能を備えており、医療機器分野では認証機関として日本で初めて厚生労働省に登録された。国内には本社(東京都)、関西本部、東京試験所、米沢試験所、テクノパーク高津と5つの拠点を構え、医療機器、産業機器、民生機器、自動車、食品、化学、エネルギーなど、幅広い分野に対して、各種試験・認証・監査・トレーニングサービスを展開。企業とその製品の信頼性を高め、海外展開を支えている。
2021年にはアンドレア・コシャ氏が日本法人の新社長に就任。同社は、2023年に創立30周年を迎え、コーポレート・スローガンに「Add Value. Inspire Trust ―新たな価値、さらなる信頼」を掲げ、製品の安全性を高めるサービスを続けている。
マインドセットをよりポジティブに変える施策の一つとして移転を検討した
旧本社は西新宿に立地するオフィスビルに入居。440坪のフロアを使用していたが、コロナ禍に導入したモバイルワーキングポリシーにより出社する従業員が全体の約30%となり、空いているスペースが多く存在していた。交通アクセスの面では新宿駅と西新宿駅、都庁前駅、初台駅など利用できる駅こそ多かったが、どの駅からもやや距離があり、従業員の満足度は高いとはいえなかった。さらに、オフィスはエリアが二つに分かれていたため、垣根を超えた交流が満足のいくものになっていなかったという。
「日本への着任時、ドイツ本社から日本法人で働いている人たちのマインドセットをさらにポジティブに変えてほしいと言われていました。そこで気持ちを一新させ、従業員間の積極的な意見交換や、部門をまたいだ新たなコラボレーションが生み出されるような環境をつくろうと。オフィス移転はその施策の一つになると考えました。以前のオフィスはあくまでも仕事をするスペースといった印象でしたから」(コシャ氏)
さらなる高みを目指す場所として新築オフィスビルへの移転を決断した
それから移転計画が動き出す。社内アンケートを実施すると従業員がアクセスに対して高いプライオリティを置いていることがわかった。全従業員の自宅からの通勤時間を調べると、多くの従業員にとってJR新宿駅の周辺が理想のエリアであった。ところが同駅周辺には大規模なオフィスビルに空室が少なく、希望に合致する物件はなかなか見つからなかった。そうした中で、建設中のオフィスビルの存在を知る。1フロア面積320坪とスペースは多少縮小されるがアクセスも良く、豊かな自然を持つ新宿御苑に近いという魅力があった。
「まさに当社にとってベストな移転先だと思いました。それで、すぐに不動産会社に詳細を問い合わせたのです」(小林氏)
「交通アクセスも、周辺環境も、そしてビル性能も、そのどれもが当社の求めていた条件に合致していました。当社の身の丈に合わないのでは、という懸念もあったほどです。しかし、さらに高いところを目指すという当社の戦略を叶えるためには、この魅力あるビルの力が必要だと思いました。そして全従業員でモチベーションを高めていく。そんな強い気持ちでこのビルへの移転を決断したのです」(コシャ氏)
「縁側」のコンセプトは、当社が意識していた大事な思いにマッチしていた
移転先が決定し、オフィスづくりのフェーズへ進む。各部署から代表者を集めてプロジェクトチームを結成。さまざまな意見を出し合った。代表のコシャ氏から「日本らしさを取り入れて欲しい」という要望があり、デザインコンペでは「コミュニケーション」「コラボレーション」「和の雰囲気」を感じられるテイストになるように、とリクエストをする。
コンペが進む中で、コンペ先の一社からコラボレーションやコミュニケーションをベースにした特徴的なアイデアが提案された。それは「縁側」というコンセプトであった。
「『縁側』は昔ながらの日本家屋によくみられる、内と外の境界をあいまいにして外とつながる空間です。それをコンセプトとしたデザイン案を見ると、壁で境界をつくることなく、動線を縁側に見立て、ゆるやかに空間の仕切りが設けられていて。物理的な障害物が少なく、心理的にも開放感や温かみが感じられるデザインになっていました。これまでよりも気軽に従業員同士で交流ができ、従業員に『出社したい』と思われ、愛されるオフィスができると、その場にいた全員が確信していました」(小林氏)
「3年前に日本法人に着任した時から、『オープンコミュニケーション』『コラボレーション』『透明性』の3つを意識していました。今回の『縁側』というコンセプトなら、それらをさらに推し進めることができると感じたのです。このコンセプトには当社が求めていた思いがしっかりと組み込まれていました」(コシャ氏)
新オフィスは境界のない開放的な空間となった。フリーアドレスを導入し、多様なオープンスペースを新設。もちろん内容の濃い打ち合わせをするための会議室も用意されている。
「たくさんの方のリクエストを可能な限り取り入れた結果、機能面も非常に良くなったと感じています。日本のテイストを取り入れたデザインは、各国のテュフズードのオフィスでは見たことのない特長的なオフィスになりました」(小林氏)
「オフィスプロジェクトのチームは本当に素晴らしかったですね。例えば『社長の意見は絶対』ではなく、しっかりと議論をしたうえで回答がありました。中には私が強く言っても"ノー"と返されることもあって。個々に、『自分たちがこのオフィスをつくりあげるんだ』という責任感を感じることができました」(コシャ氏)
今までにない機能と開放感を調和したオフィスが完成した
それでは新オフィスを紹介していこう。
エントランスは、明るく優しい色調の木を随所に使用している。壁面の白と植物の緑、ソファスペースの藍色のコントラストが美しく、障子を連想させるようなデザインやレセプション台に飾られた松の盆栽など、モダンでありながら日本らしさを感じさせる。
会議室は、このエントランスエリア内に配置している。旧オフィスでは、オンラインミーティングをするために会議室を一人で使用するといったケースも多く見られた。そこで個室型のフォンブースを設置し、会議室を適正な数・広さに改善。大幅にスペース効率を向上させている。
「会議室の名前は、当社の拠点が置かれている東京渋谷区、品川区、山形、大阪を代表する草木の名前を付けています。従業員のアイデアを採用しました」(小林氏)
エントランスの奥には、眺望を楽しめるソファスペースが配置されている。眼下を見下ろすと新宿御苑が広がっており、従業員はもちろん、ゲストにも四季折々の美しい景観を提供する。
ソファスペース
「移転後に神宮外苑花火大会が開催されたのですが、このソファスペースに従業員のご家族をお招きしたんです。まさに特等席でした。それも手伝って普段、会話をしない人同士での交流も生まれました。花火大会の観覧は毎年の恒例行事になりそうです」(小林氏)
セキュリティを解除して執務室に入る。ここでも床面や天井、デスクなどに木が使用され、植物も随所に配置。ナチュラルで暖かみのある雰囲気をつくりあげた。空間と空間の境に仕切り壁はつくらず、収納棚などを活用してゆるやかな区切りとした。フリーアドレスの席は充分な数を確保し、仮に全従業員が出社しても席が足りなくなることはない。そのうえデスク幅1,500mmを確保しているため、パーテーションを置かなくても、隣席からの視線などは気にならない。大型モニターを備えた席、ルーバーで軽く仕切られた集中エリアなども用意されており、自分の業務内容に応じて最適な場所を選択できるABWを採用している。
その他、各所には大小さまざまなミーティングスペースが設けられているので、いつでも気軽な打ち合わせが可能となっている。
執務室
社内ミーティングエリア
集中エリア
室内中央のファミレス席
新オフィスの一番の特徴的なエリアがカフェテリアとなる。執務エリア中央に設けられており、ランチや休憩時はもちろん、固定式のスクリーンとプロジェクターを使った社内イベントにも活用されている。
カフェテリア
「新しい設備はいくつもありますが、私が最も重視したのはこのスペースです。人が集まり、色々なことができる場所です。全従業員を対象にしたミーティングやイベントを行っても、業務上の理由でどうしても席を離れられない人はいます。その場合、自席で少しだけ耳を傾けることで、部分的な参加が可能になります」(コシャ氏)
従業員同士で顔を合わせる場が多いほど会社の成長につながる
移転前はフリーアドレスに対して不安を持つ従業員も多かったが、慣れてきた現在は、働きやすいという声が増えているという。そして従業員間のコミュニケーションやコラボレーションは間違いなく活発になっていると語る。
「今後はさらにコミュニケーションが促進されるようなイベントの企画なども考えていきたいと思います」(小林氏)
加えて、移転後のオフィスは人材獲得の面でも効果を発揮すると考える。
「人材不足が問題となっていますが、新オフィスは人と人とのコラボレーションが生まれやすい環境になりました。そんなフレキシブルな働き方に対応できるオフィスは採用活動の面でもアピールできると考えています」(コシャ氏)
そして、コシャ社長は、新オフィスで働くことでオフィスの重要性を再認識したという。
「日本法人の代表取締役に就任した時はコロナ禍で来日できず、7ヵ月もの間イタリアからリモートで参加をしていました。会ったことのない日本法人の従業員と仕事を進めていくのはとても大変なことでした。『人と人とのコミュニケーションは言語情報が7%、それ以外の情報は93%』ということを学んだことがあります。リモートも画面を通じて顔は見えますが、基本情報は言語情報です。つまり7%のコミュニケーションにしかならず、当然それだけでは全く足りないと感じていました。リモートワークという働き方は今後も推進していきますが、それよりもオフィスで顔を合わせて雑談をし、新しいアイデアを創出させることの方が大事です。お互いのことをよく知ることはチームビルディングにつながります。そうした些細なことが会社の成長に結びついていく。そこに今後の働き方のヒントがあると考えています」(コシャ氏)
欧州をはじめ、米国、アジアの主な標準化委員会に積極的に参加して規格開発と実施に携わり、最新かつ確実な情報収集に努めているテュフズードジャパン株式会社。その社風は、人を重視し、社員のISO資格取得をフルサポートするなど研修制度も充実している。