株式会社USEN

2007年4月取材

この事例をダウンロード

バックナンバーを一括ダウンロード

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

グループ会社の同居によるコラボレーション
「機能」と会社の顔としての「デザイン」を追求した新時代オフィス

有線および衛星放送、カラオケ、ブロードバンド・通信、映像・コンテンツ、店舗など、多様な事業で急成長を遂げている株式会社USENは、グループ会社を含めた組織の集約を目的に、今年3月、ミッドタウン・タワー33~38階への本社移転を行った。18社、約2000人の従業員が「机を並べる」オフィスはコラボレーションを活性化する新しいワークスタイルとして注目を集めている。また話題の街「東京ミッドタウン」にデザイン性の高いスペースをオープンさせたことでマスコミからも大きくとりあげられ、ブランディング効果は予想を上回るものがあったという。

プロジェクト担当

住谷 猛氏

株式会社USEN
住谷 猛氏

取締役
法人営業本部長
兼 GyaO事業本部
営業局担当

黒田陽一郎氏

株式会社USEN
黒田陽一郎氏

社長室
チーフリーダー

伊澤成人氏

株式会社
CWファシリティ
ソリューション
伊澤成人氏

代表取締役社長

信太智秀氏

株式会社
CWファシリティ
ソリューション
信太智秀氏

チーフソリュー
ションプランナー

小野宗久氏

明豊ファシリティ
ワークス株式会社
小野宗久氏

デザイン部
デザインディレクター

はやわかりメモ

  1. シンパシーのロスをなくすオフィスの統合
    グループ内の企業でさまざまな共同プロジェクトを行っていても、オフィスの場所が異なると、そこにはどうしても「組織の壁」が生じてしまう。「シンパシーのロス」は、「時間のロス」「コミュニケーションのロス」のように悪影響が見えにくいだけに深刻。したがって、グループ会社を含めたオフィス統合は大きな意味を持つ。
  2. 法人の枠を超えた融合オフィスの試み
    USENグループでは約2000人の従業員をミッドタウン・タワーに集結。関連会社が机を
    並べる環境でコミュニケーションの促進を図った。
  3. 「会社の顔」としてのオフィスデザイン
    エントランスロビー、シアター、スタジオ、接客コーナーなどの公共スペースは会社のイメージを決める大切な場所。豪華な内装を施さなくてもデザインの工夫でブランディングは可能。
  4. グループ統合オフィスのメリットは大きい
    分散オフィスに比べてスペースの無駄がなくなるだけでなく、システムの統合や管理部門の集約によって業務の効率化も実現できる。時間のロス、コミュニケーションのロスまで解消したコストメリットは非常に大きい。

グループ会社の求心力を高める「ONE USEN」プロジェクトの開始

1961年に大阪で創業した大阪有線放送社を前身とする株式会社USENが、通信や音楽・映像事業などへの本格的な進出を目指して千代田区永田町の山王パークタワーに本社を移したのは2000年4月のことだ(当時の社名は株式会社有線ブロードネットワークス)。その後の急成長により次々とオフィスを拡張していくが、数年後には10カ所以上に分散するかたちとなり、業務上の支障を感じるようになる。しかも、事業の多角化に伴う新会社の設立や企業買収による組織の拡大は、求心力の低下を招く可能性さえあった。そんな状況を改善するため、代表取締役社長の宇野康秀氏自ら打ち出したのが「ONE USEN」という理念だ。すべての社員にUSENグループの一員であるという意識を強く持ってもらう。そのための経営改革の目玉として、関連会社を含むオフィスの統合が計画されたのである。宇野氏の片腕として長く総務や人事など管理部門の担当役員を務めていた住谷猛氏(現在は法人営業などを担当)は、「ONE USEN」の意義をこう説明する。

「USENグループでは、放送から音楽コンテンツ、ブロードバンドから映像というように関連する分野への多角化を戦略的に進めてきました。その結果、事業会社同士が共同でビジネスを行うケースは多く、グループ内の結びつきは非常に強いといえるでしょう。それだけに、オフィスの距離が物理的に離れているという状態は問題だったのです」

当時、経営陣の間では、オフィスが分散していることで生じる損失を、「時間のロス」「コミュニケーションのロス」、そして「シンパシーのロス」の3点にあると分析していた。時間のロスとはいうまでもなく移動に伴う手間であり、コミュニケーションのロスとは意志疎通の不足である。もちろんこれらのデメリットは大きいが、住谷氏は「それ以上にシンパシーのロスは経営上の重大なマイナスだ」と指摘する。

「シンパシーのロスとは、簡単に言えばセクショナリズムの弊害です。共同で進めているプロジェクトなのに、働く場所が離れているとついつい壁をつくり、『向こうに任せればいいや』と手を抜きかねません。そういうことが積もり積もると、最終的なパフォーマンスの質が落ちてしまうのです。しかも、シンパシーのロスによる損失はなかなか目に見えないし、いくらネットワークが進歩しても解消できないから怖い。だからこそ、ONE USENによってオフィスを統合する意義は大きいと感じていました」

オフィス設計やデザインのプロとの徹底した意見交換で生まれたアイデア

「ONE USEN」の理念のもとに新しい本社オフィスの検討が始まったのは2005年の夏ごろのことだ。最初に問題になったのは、必要な人数を収容できるだけのビルがあるかという点だった。

「USENの従業員数は約4000人、連結子会社を含めれば1万人近くになります。そのうち、2000人近くを本社に集約したいと思っていただけに、既存のビルでそれだけのスペースを確保するのは難しいだろうと思っていたのです」(社長室、黒田陽一郎氏

そんなとき、ミッドタウン・タワーに5.5フロア、合わせて約5500㎡のオフィスを借りられる見通しがたち、移転プロジェクトは一気に現実的なものになっていく。その段階でUSENが考えていた「新本社の条件」は2つある。一つは、できるだけ多くのグループ会社を収容し、なおかつ、企業の壁を超えたコラボレーションが自然に促進される職場環境の構築だ。そしてもう一つは、マルチメディアカンパニーとしてのUSENグループを社外にも強く印象づける「会社の顔」としてのオフィスデザインである。そしてプロジェクトを推進する専門家として、株式会社CWファシリティソリューション(CWF)の伊澤成人氏信太智秀氏加藤泰子氏、明豊ファシリティワークス株式会社の小野宗久氏他多数のメンバーが参加することになる。

「役割分担としては、CWFが全体のコンセプトづくりとシステム構築および執務スペースの基本デザインを担当しています。両社のメンバーはプランニング段階から参加してきたので、お互いの領域に踏み込んで意見を出し合いながら共同でアイデアを固めていったケースが多かったですね。加えて、USEN側は宇野社長や住谷さんを筆頭に多くの社員の方たちが積極的にプランづくりに携わっており、まさに全員参加のプロジェクトになった。これはオフィス構築として理想的なスタイルでした」伊澤氏

これについては小野氏も同意見だ。

「今回、明豊ファシリティワークスは、設計と品質・コスト・スケジュールなどのプロジェクトマネジメントに関りました。私はまさに「会社の顔」となる パブリックエリアのデザインと、オフィス全体のマテリアル選定やサイン作成などのお手伝いをしました。これまでもさまざまなオフィスをデザインしてきましたが、経営者の方は「経営」のイメージはあっても、それを「オフィスのデザイン」にする明確なイメージを持っている方は多くはいません。今回のUSEN様でも、宇野社長と何度もお話をさせていただき、言葉からイメージをつくり、カタチにしていく、そういった作業を繰り返し、このデザインを作り上げました。大変な作業したが、今回も本当にいい仕事をさせていただいたと思っています。」

入口からホテルをイメージするロビーまで
考え尽くされたデザインが会社の顔をつくる

接客ロビー

それでは2007年4月に本格オープンしたUSENの新本社を見ていこう。

まず33階には接客ロビーとスタジオ、会議室があり、ここと34階のシアターおよび打ち合わせコーナーが来客対応用の公共部分となる。そして34階の約半分と35~38階がオフィス(執務スペース)であり、34階に社員用のカフェテリア、38階にエグゼクティブスペースが設けられている。動線はスムーズで、33階の総合受付にはビルのエントランスから、直接、シャトルエレベーターで上がってくることが可能だ。

「ただし、エレベーターホールからはロビーの全容が見えないように、あえて開口部を狭くしました。その奥にカウンターと6面の大型マルチモニターを配置し、外から『覗ける』ことで訪れる人に期待感を持たせるのが目的です」小野氏

小野氏によれば、「オフィスデザインはこうしたちょっとした工夫の積み重ねで効果的な演出ができる」という。そして今回のプロジェクトでは、さまざまな部分にデザイナーらしいアイデアが活かされている。たとえば、入口を抜けて広がる接客ロビーに置かれた吹き抜けのガラス噴水もその一つだ。 「上の階にあるシアターに試写会などのお客様を誘導するため内階段を新設したのですが、そこに自然に誘導する仕掛けとして、吹き抜けの噴水を提案したのです。階段の横を水が流れ、しかもガラス面には映像を表示できますから、絶対に目立つはずだと主張しました」小野氏

受付とロビーのデザインについて、宇野社長から出されていた条件は「ホテルのように落ち着ける雰囲気にしてほしい」というものだった。このため、多くのホテルに設置されている噴水は有効だが、一方で「企業のオフィスとして華美なデザインは避けたい」という要望も強く、提案した当初、噴水の採用には慎重論もあったという。

「宇野社長は堅実な性格なので、打ち合わせのときには何度も『豪華にする必要はない』と主張されていました。しかし今回の噴水は、実は過剰な演出ではないのです。内階段を設ける場合、法規上、なんらかの防火対策を施さなければならなりません。通常はスプリンクラーを増設しますが、下に水が流れていればそれでカバーできる。つまり実用的な設備を兼ねているのですから、結果としてそれほど多くのコスト増にはなっていないのです」小野氏

スペース、システム、管理業務......組織が分散すると無駄が多くなる

一方、執務スペースは徹底した機能の追求とフレキシビリティをコンセプトにデザインされた。

「このビルには南北面に少し出っ張った部分があり、そこだけ奥行きが違うので、この部分にガラス張りの個室を集中することで、内側に明るい矩形の空間を創出し、これをグリッドに区切ることによってよりフレキシビリティの高いオフィスを実現しました」(伊澤氏

デスクレイアウトは背面対向のユニバーサルプランとし、すべてのグループ会社が同じ仕様のワークステーションを使用する。これは、組織変更等の際、グループ会社を含め、フレキシブルに配置変更できるようにするためだ。また、「島」全体を固まりのユニットとするのではなく、背中合わせの4人分のデスクが1組となるユニークな構成を採用した。提案したのはシステム計画担当の信太氏とオフィス計画担当の加藤氏である。

「4人分を1ユニットとし、その中でマネジャー席やミーティングスペースへの用途転換が可能なように考慮してあります。電源やLANのケーブルを想定される使い勝手に対応できるようにあらかじめセットしておくことにより、専門業者に工事を依頼することなく社員たちだけで対応できるようにしてあります。つまり、一見島型のレイアウトでありながら、かなり自由なレイアウト変更ができるのです」

なお、USENグループには映像コンテンツを扱う会社もあるため、処理能力の高いデスクトップPCと大型モニターが設置できるようにデスクの幅は1400mmに設定し、無線LANではなくギガビットの有線LANにした一方で、奥行はスペース効率を上げるため600mm、島ピッチは3000mmとした。システム上は、もう一つ大きな工夫がある。

「レイアウト上、共用オフィスに複数の会社が同居するかたちになりますから、グループ全体での情報共有環境と各社独自の環境とを両立させることが必要となりました。社内ネットワークをグループ共通のものと、組織別、階層別のものに分類し、アクセス権限を設定するかたちで構築することにより、この課題を解決しました。基本的には物理的なネットワークは一つに統合されていますから、運用面を含めたコストは、グループ各社が別々に構築する場合に比べてかなり削減できたはずです」(信太氏

もちろん、統合によるコスト削減効果は、他の部分でも充分に発揮されている。

「会社ごとの区分けは、島単位あるいは机単位で行われていますから、それぞれが別のオフィスに入居していたころに比べて、はるかにスペースの有効利用が進んでいます。さらに人事などの管理部門では、各社の担当者を1カ所に集め、一緒に働くスタイルを採用しました。これにより仕事の一部を共有でき、業務手順そのものを大幅に削減できたのです」(黒田氏

今回、新本社に入居したことにより、統合前は7カ所に散在していた拠点を1カ所に集約できたことになり、それだけでも組織集約の効果は大きいといえるだろう。

目に見えない「シンパシーのロス」を生じさせないのはオフィス統合だけ

2007年3月に約4週間かけて行われた移転プロジェクトは、オペレーションだけでもかなり大変なものだった。

「3カ月くらいかけて綿密な計画を立てましたが、毎週末、500人規模で移動してくるものですから、その間はほとんど走り回っていた記憶しかありませんね」(黒田氏

それでも徐々に社員たちが慣れてくるにつれ、統合の効果は発揮され始めているという。 「いちばん遠いところでは渋谷と浅草にまで離れていた組織が一緒になったのですから、コミュニケーションは一気に活性化されています。正式な会議以外にも気軽に情報交換できるので、そこから新たなビジネスが生まれる可能性は誰もが感じているのではないでしょうか」(黒田氏

住谷氏も、その便利さを実感している。 「私はいくつかのグループ会社の役員も兼任していますが、これまでは定期的な会議があるたびに都内を走り回らなければならず、時間なロスはかなりのものでした。もちろん、他の社員たちも同じで、単に手間がかかるというだけでなく、人件費などのコストも無駄になっていたのです。しかし今は、必要とあれば数分で関係者が集まれる。それによる経営上のメリットは測りしれません」 そして、オフィス統合の最大の目的である「シンパシーのロス」の解消についても、徐々に効果が表れ始めてきたという。 「たとえば、ギャガ・コミュニケーションズが配給する映画の情報をブロードバンド放送サービスの『GyaO』で放映するといったことはずっと行ってきましたが、職場が一緒になったことで、お互い、積極的に意志の疎通をするようになってきたと感じています。その結果、少しでも多くの情報が視聴者に届けば、映画もテレビもその価値が高まっていく。そんなシナジー効果は確実に生まれています」(住谷氏

オフィスづくりの経験が豊富な伊澤氏も、「USENという会社にとって統合の効果は非常に大きい」と指摘する。

「USENは社長が気軽に社内を歩き回り、『宇野さん』と呼ばれて話しかけられる風通しのよさが魅力の会社です。それにより社員間で共通の意識が芽生え、急成長を支えてきたといってもいいでしょう。どんな企業でも組織が大きくなると、そういった『いい社風』が失われてくるものですが、USENはグループ会社まで1カ所に集めるという戦略で自分たちの強みを今まで以上に発揮していこうとしている。まさにオフィスが経営に大きな貢献をしたケースだといえるのです」

執務スペース

先明豊ファシリティワークス株式会社 小野宗久氏 デザイン部 デザインディレクター
人と人の出会いを最大限に生かす USEN新本社オフィスのデザイン

ホテルのロビーのようなエントランスフロアの接客コーナーや、シアターの周囲に設けられた外部スタッフとの打ち合わせスペースなど、USEN新本社ではあらゆるシーンでコミュニケーションを図れる工夫がされていますが、役員の執務室がある38階のエグゼクティブスペースでもそれは同じです。たとえば宇野社長の部屋には内階段があり、下の階のオフィスとはオープンな状態で直結しています。つまりお互いに自由に行き来ができるのです。また「社長室」の中に複数の会議室が設置されており、掛け持ちで打ち合わせをすることが可能です。ちなみに、このような大胆な設計は宇野社長と何度も意見の交換ができたから実現したもので、まさにUSENという会社の特色に合わせたオーダーメイドのオフィスになったのではないでしょうか。

もう一つ、コミュニケーション上、大きな役目を果たすのがカフェテリアになります。食事だけでなく喫茶や打ち合わせまで多目的に活用したいという要望に応えるため、立食カウンター、ボックス、ラウンジなどさまざまなタイプの席を用意しました。つまり、1人から大人数まで必要に応じて利用できるようにしたのです。カフェテリアのような施設は無駄だと考えている企業が多いようですが、1日中使えるフリースペースとして活用できれば、そんなことはありません。しかもUSENの場合、夜はお酒のサービスもありますのでイベントや宴会の会場にもなりますし、さらに隣接する大会議室とつなげれば400人が一同に集まることもできます。その結果、稼働率はかなり高くなりました。

最近は情報漏洩の問題があり、重要な話が出るような社内イベントを外の会場で行うにはいろいろと気を使うようになりました。それを考えれば、多目的カフェテリアはスペースの活用方法として、むしろ有効だと思いますね。

この事例をダウンロード

バックナンバーを一括ダウンロード