「オーバル」デザインの導入で空間に変化をコミュニケーションを演出する多様な空間。
それでは、具体的なフロアプランを見ていこう。今回、全体的なプロジェクト管理とオフィスエリアの設計・デザインを富士ビジネス株式会社が、21階のゲストエリアの設計・デザインをゲンスラー アンド アソシエイツ インターナショナル リミテッド(以下、ゲンスラー社)が担当している。まず、オフィスエリアのレイアウトで特徴的なのが、コア部分にあるラウンド状の仕切りだ。
「執務室は直線で構成されるのが常識ですが、あえてオーバル(楕円)の構造を持ち込むことで、空間構成に変化を付けたかったのです」(富士ビジネス・工藤茂氏)
楕円で仕切った内側はユーティリティ・キッチン&コラボレーションスペースとし、コピー&ファックスの複合機、文具類のステーション、休息コーナーなどの共有施設を集め、インフォーマルコミュニケーションの舞台とする。そして仕切りの外側にラウンド状の通路を設け、そこを通ってデスク間を移動できるようにした。
この大胆なデザインには、WOWOW側も高い評価をしている。
「図面だけを見たときは、ただの変わったレイアウトかと思ったのですが、実際に完成してみると、通路を歩きながら角度が変わるので、オフィスの印象が単調になりません。デスクが平行に並んでいるよりも、動的なイメージを受けますね」(西川氏)
オーバルによるオフィスレイアウトは、工藤氏が前からあたためていたアイデアだ。
「一見、スペースが無駄になるように思えますが、オフィスにあるさまざまな什器や機械類をうまく配置すれば、効率はそれほど悪くはなりません。むしろ、変化に富んだコミュニケーションスペースを設置できるので、WOWOWの本社移転の目的を、充分に果たせるのではないかと思いました」(工藤氏)
実は以前、工藤氏は別の案件で「入居後の組織改革の際、オフィスリニューアルで、普通の平行デスク配置にされていた」という経験があった。しかし今回は、移転後もオフィスの運用に関わるという条件だったため、自信を持って設計をしている。
「平井さんは『オフィスは移転後が大事だ』という考えを持たれていたので、リニューアルの管理までできるパートナーということで、私たちの会社を選んでいただきました。継続して関われるからこそ、こちらも大胆な提案をできるわけで、契約形態としては理想的な形だったと思っています」(工藤氏)
また20階のフロアは中央のコア部分によってオフィスが2つに分断してしまうが、その間をつなぐ機能として会議室を有効活用している。「会議室とミーティングスペースをENGAWA(エンガワ)という名称のエリアにしました。セキュリティ上、執務エリアは外部の人は立ち入り禁止にしていますが、ENGAWAは中間スペースとして、親しいパートナー会社や業務委託会社のスタッフ、社員たちが自由に出入りしてコミュニケーションを深めていくスペースなのです」(富士ビジネス・土田道博氏)
コミュニケーションの活性化が基本コンセプトだけに、オフィスづくりのさまざまなフェーズにおいて、プロジェクトチーム、社員、富士ビジネスなど関係者みんなが意見を交わし、何がベストかを考えていった。それだけに、細かいところまで神経が行き届いている。
「例えば、外出先連絡表を旧来通りボードにするか、あるいはシステムで管理するのか、最後の最後まで議論しましたね。結果、みんなが気軽に見られるほうがいいということで、あえてボードを残したのです。その他、ユーティリティにたくさんの掲示板を配置するなど、全体として多様なコミュニケーションを演出できる空間になり、コンセプトは充分に実現できたと自負しています」(土田氏)

社外とのコミュニケーション機能を高める
先進的なデザインを採用したゲストエリア。
一方、21階のゲストエリアは、オフィスエリアと全く異なるデザインを導入することで、さらに違うコミュニケーションを可能にしている。
「新しいWOWOWの顔となる部分だけに、デザイン的にはかなりの冒険をしてもらいました。私たちがお願いしたのは、映像の会社なので、それをちゃんとアピールできる空間にしてほしいということです」(平井氏)
「放送局であるWOWOWは映画会社をはじめ、さまざまな取引先から映像コンテンツや放送権利を得るための交渉などを行いますが、オフィスの印象が悪ければ、『こんな会社に大事な作品をまかせて大丈夫か?』と不安な気持ちを持たれてしまいます。それだけに、お客様を安心してお招きするスペースにしたかったのです」(西川氏)
そんな期待に応えて、ゲンスラー社の天野大地氏が考えたのは、どこにいても映像が感じられる空間づくりだった。
「平井さんからは、『会社のロゴを目立たせることより、とにかく映像を多用することを優先してほしい』とのことだったので、受付の背面から始まり、待合室のように使えるフリースペースから打合わせ用の会議室までモニターを配置し、しかもガラス張りで覗けるようにしました」
ただし、全てのレイアウトは、綿密に計算されつくしたものになっている。「今回のプロジェクトでは、社内の各部門の代表者がメンバーになっていたので、彼らと徹底的に討議し、ゲストエリアの用途を全て洗い出したのです。そして、それらを実現した上で、デザイン的にも強い印象を与えるような工夫をしていきました」(天野氏)
その代表ともいえるのは、もっとも奥まったところにあるキャンティーン(canteen=娯楽所や食堂といった意味)と呼ばれるスペースだ。その名も「Discovery」。
「お客様との打ち合わせや社員のランチタイムに使われるだけでなく、決算説明会やさまざまな発表会も可能な多目的スペースにするため、テーブルは簡単に折り畳んで片付けられるものにしましたし、天井から吊り下げられたパーテーションを動かすことで、独立した部屋のようにも感じられるようにしました。もちろん、広さや席数などは、あらゆる用途をシミュレーションし、厳密に決めてあります」(天野氏)
その他、ゲストエリアには次のようなコーナーが設けられている。
シアタールーム「Starship」
100インチの大画面、5.1チャンネルのサラウンドシステムを持つ最大収容人数30名の試写スペース。
「新しいオフィスになって最も自慢できる施設の一つです。今まではちゃんとした試写会も社内ではできなかっただけに、お客様の接点は一気に広がったことになります」(西川氏)
ボードウォーク
ゲストエリア内をウッドデッキの回廊がL字型に通り、回遊性を高めるとともに、窓際のカウンターでリフレッシュや作業ができる。
「カウンターの椅子は西川さんが『絶対にこれにしたい』といったもの。そういう社員の声を活かせたのは、デザイナーとしてもうれしい結果です」(天野氏)
ゲストルーム「Planet212・213」
ショーケースのようにガラス張りにして開放的なイメージに。中からも屋外の眺望が眺められる。
これらのデザインを見ても分かるように、WOWOWの新本社オフィスでは、各所に社員の要望や声を活かし、デザインだけでなく機能面でも高いレベルを目指してきた。そして、その工夫は、今後も続いていく。「移転は引っ越しをして終わりではありません。プロジェクトチームは解散せず、引き続き活動を行っていくことになっており、社員からの声も集めています。オフィスは生き物なのですから、常に状況の変化に合わせて改善していきたいですね」(西川氏)
「まだ移転から間もないですが、社内を見ていると、営業と編成、制作が一緒に雑談をしているシーンが増えるなど、コミュニケーションは確実に良くなっています。今後、社内をより活性化していくような制度を設けたり、イベントなどを併行して展開していくことにより、新しいオフィスによる意識改革は確実に経営の成果となって現れるのではないでしょうか」(平井氏)
社内への広報活動にも力を入れることで、
社員みんなで成功させるプロジェクトへ。
WOWOWの本社移転プロジェクトで大いに参考になるのが、社員たちへの情報開示に社内報を有効活用した点だ。「あまり早くスタートさせてもだらけてしまう」との判断から移転の半年前を契機に、プロジェクトチームの活動報告というコラムの連載を始めた。最初は小さな記事だが、回を追うごとに情報量を増していき、移転直前には特集記事を掲載するだけでなく、1冊丸ごと新オフィス関連の情報を紹介する別冊を特別に発行して、周知を徹底している。
社内広報では移転に伴って必要な事務的情報を伝えることも大切だが、WOWOWが優れているのは、それだけに留まらず、プロジェクトの意義や目的、新オフィスのビジョンとコンセプトなどを繰り返して紹介しているところだ。これにより、社員たちは本社移転が経営や働き方を一新する重要な戦略の一環であることを強く受け止めるのである。
- 2008年6月号
「赤坂大移動PROJECT活動報告」第1回(1/2ページ)
本社オフィスが年内中に移転されることを正式に報告し、プロジェクトメンバーのリストを掲載、「新社屋についてのご意見・ご要望はメンバーまでお寄せください!」と、プロジェクトがオープンに進められることを強調している。
- 2008年7月号
「赤坂大移動PROJECT活動報告」第2回(2/5ページ)
新オフィス構築プロジェクトの全体管理を担当することになった富士ビジネス株式会社を紹介、工藤氏がメッセージを寄せ、今後のおおまかなスケジュールなども公開した。
- 2008年8・9月号
「赤坂大移動PROJECT活動報告」第3回(1/2ページ)
新オフィスではスペースの有効活用を図るため、移転まで継続して実施していく「いらないものを捨てようキャンペーン」の紹介。キャンペーンの目的や方法を明確にし、上からの押しつけではなく全社員の自主的な取り組みが重要であることを強調した。
- 2008年10月号
「赤坂大移動PROJECT活動報告」第4回(3/5ページ)
移転まで約2カ月となったため、フロアのレイアウトや会議室のネーミングなどが決定したことや、新しいオフィス美化ルールの内容案を紹介して、検討のための意見を求めている。
- 2008年11月号
「赤坂大移動PROJECT活動報告」第5回(3/5ページ)
改めて今回の移転プロジェクトのビジョンやコンセプト、デザインイメージ、新オフィスでの働き方などを整理して紹介することで、社内の情報共有を促す。
- 2008年12月号
本社移転特集+「赤坂大移動PROJECT活動報告」第6回(2ページ)
特集は和崎社長へのインタビュー記事で、「移転は単なる新しいビルへの引っ越しではなく、WOWOWが新たなステージに進み、No.1プレミアム・ペイチャンネルを実現するためのステップです」と、今回のプロジェクトの意義を強調。活動報告ではゲストエリアのデザインを行ったゲンスラー社の天野氏と黒川梨江氏が登場し、コンセプトやポイントを紹介。
- 2009年1月号
ニュース記事+「赤坂大移動PROJECT活動報告」第7回(約1ページ)
「2008年WOWOW 10大ニュース」で第1位に選ばれた「赤坂パークビルに本社オフィスを移転」について紹介する中で社員のコメントを掲載。
「新しい気持ちで働くことで、局間のコミュニケーションも良くなると思う」(編成部)その他、新オフィスのお披露目パーティーの報告があり、社外からの注目度の高さを知らせた。活動報告では新オフィスの庶務業務を担当するOSC(オフィスサービスセンター)を紹介し、移転後もオフィスの改善活動は続いていくことを強調。
- 別冊「赤坂大移転特別号」
2008年11月に、通常の半分のA5判サイズで発行、新オフィスへの理解を促した。内容は、フロアガイドからファニチャーの紹介、交通案内、近隣の飲食店ガイド、プロジェクトサブリーダーである西川氏のインタビューと盛りだくさん。「あなたの謎を少しでも解決!新オフィスへの疑問・質問」と題されたQ&Aに、今回のプロジェクトが成功した大きな理由であるWOWOWの風通しの良い社風が表れているので、一つだけ紹介しておこう。
Q. オフィス内に喫煙スペースはできますか?
A. 20F、21Fともに喫煙所を1カ所ずつ設置します。ところで、新オフィス移転を機に禁煙するのはいかがでしょうか!? 新オフィスイテンで心機イッテン!