NECネッツエスアイ株式会社

2015年1月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

4つのキーワードで「EmpoweredOffice」を実践。常に新しい働き方にチャレンジしていく

通信インフラの分野で企業からの様々な課題に応えてきたNECネッツエスアイ。早い段階から次世代の働き方を提案し、2007年にはオフィス改革ソリューション「EmpoweredOffice」を立ち上げた。新本社はそのコンセプトをベースに、新たな価値を加えたものとなっている。今回の取材では2007年から継続しているオフィスコンセプトの概要、現オフィスの具体的な新機能についてお話を伺った。

プロジェクト担当

湯江 明史氏

NECネッツエスアイ株式会社
企業ソリューション事業本部
エンパワードオフィス販売推進本部
本部長

湯江 明史氏

鈴木 聰子氏

NECネッツエスアイ株式会社
企業ソリューション事業本部
エンパワードオフィス販売推進本部
エンパワードオフィスデザイン
センター
センター長

鈴木 聰子氏

手前:セルフマネジメントゾーン  奥:執務ゾーン

手前:セルフマネジメントゾーン  奥:執務ゾーン

はやわかりメモ

  1. 2007年からオフィス改革ソリューションを始動。コンセプトは「EmpoweredOffice」
  2. あらゆる" 壁" を越えて人と情報をつなぐ。それがワークスタイル改革の考え方
  3. 以前のオフィス改革をベースにして進化させたオフィスづくりを行なった
  4. 働き方によって場を変化させる機能満載の新オフィス
  5. 定期的に満足度調査を実施。その結果を次のオフィス改革に活かしていく

2007年からオフィス改革ソリューションを始動。
コンセプトは「EmpoweredOffice」

情報通信システムに関する企画・コンサルティング、設計・構築をサポートするNECネッツエスアイ。ICT業界の最大手で国内約400カ所の拠点を持つ。音声通信網の設置工事から始まり、企業、キャリア、官庁・自治体と幅広いお客様へネットワークシステムの構築そしてIT領域を含むICT(情報通信技術)全般への事業領域を拡大してきた。
2007年にオフィス改革ソリューション「EmpoweredOffice」を立ち上げる。その目的は多くのお客様に対してICTとオフィス機能を組み合わせた次世代の働き方の提案にあった。

「それ以前は内線電話やテレビ会議システムのような音声サービスの分野でのシステム構築が事業の主体でした。ところが日本経済の安定に合わせてオフィス全体のネットワークシステムを提案して欲しいとの要望が増えてきます。それならば幅広い情報通信サービスをワンストップで提供しようと。そうして『移転ソリューション』というキーワードを用いて働き方を提案することにしたのです」(湯江明史氏

しかしそう簡単に理解されるものではない。そこで当社に来られた方が自然の流れの中で体感でき、そのまま提案に繋がるようなオフィスを構築することとした。オフィスコンセプトは『EmpoweredOffice』。「働く人や事業拡大のために機能を備えたオフィス」という同社の意思が込められている。

「そのような取り組みを開始したのが、東品川の旧本社オフィスです。まずは営業部門とSEの一部を配置した2フロアからトライアルしました。ちょうど2007年にSECIモデル(注1)が発表されたこともあり、それを元にどのような働き方がベストなのかを考えながらのチャレンジでした」(鈴木聰子氏)

東品川オフィスは、翌年に同社として初めてとなる日経ニューオフィス賞を受賞する。それ以降、オフィス改革は全社的な課題として共有。その後支社・支店含め日経ニューオフィス賞を8回受賞することになる。

「もちろん受賞は喜ばしいことですが目的はそこではありません。賞にエントリーする行為自体が有意義なことなのです。何しろそこに至るまでの考えや課題を振り返り、さらに再認識することができるのですから」(湯江氏)

(注1)SECIモデル
知識の共有や活用によって知識創造がどのように生み出されているかを、一橋大学院の野中郁次郎教授が発表したプロセスモデル。全ての知は、個々の体験に基づく暗黙知にあるという考え方。

あらゆる" 壁" を越えて人と情報をつなぐ。それがワークスタイル改革の考え方

それでは2007年の東品川オフィスでの取り組みについて紹介しよう。大きく4つの提案から構成されている。

1.人と情報が交わる場をつくる(創造性を高める働き方)

  • ワークスタイルの変革(社内調整型 ⇒ コラボレーション型)
    (関係者全員で課題を共有し、解決に導く)
  • 創造行動を促進させる空間(偶然の出会いによる知の交流)

2.知的にぎわいの促進

  • 外部との相互交流による課題解決の場
  • アクティブアバター(仮想空間上の分身)による交流促進

3.社員のモチベーションを高めるしくみ

  • クリエイティブな働き方を自覚させるSECIモデルボード
  • 見える会議室
  • デジタルサイネージを使った省エネの見える化
  • 先進的な技術環境を備えた技術者育成ゾーン(NGN Labo)

4.ICT環境の活用

  • 映像垂直投影デスク
  • 電子黒板
  • 全館無線LAN
  • 高画質モニタによるテレビ会議室

「オフィスの中に視界を遮るものをできるだけつくらない。会議室のあり方を考え直す。この2点をオフィス改革の中核としました。慢性的に会議室の数が足りないという現状をいかに打開できるか。そのためには働く環境を劇的に変える必要がありました」(湯江氏)

「当然、賃貸オフィスには常にコストがかかっています。スペース効率をどれだけ改善できるか。会議室は閉ざされた空間でなくてはいけないのか。オープンならば誰でも気軽に参加できるのではないだろうか。それが積極的なコミュニケーションに繋がるのではないか。そんなことを一つひとつ検証していきました」(鈴木氏)

以前のオフィス改革をベースにして進化させたオフィスづくりを行なった

慣れ親しんだ東品川のオフィスではあったが、経営課題を解決するために本社移転を検討することになる。経営課題は以下の3つであった。

  1. 統合によるオフィスコストの削減(フロア30%削減目標)
  2. トップライン拡大に向けた営業力の強化(全社プロセスの改革)
  3. BCPの強化(大規模災害時の事業継続性確保)

「当時、東京には東品川と芝浦の2拠点がありました。分散したオフィスを一つに統合することで業務効率は間違いなく良くなりますし、面積の削減も可能になります。また両拠点ともにすぐに営業アクションを取りやすい場所とはいえませんでした。加えて、入居ビルの老朽化への懸念とともに、隣に運河が流れる埋立地でしたのでBCPの観点からも立地の再検討は命題となっていました」(鈴木氏)

東品川ではSECIモデルを元にした創造性を高める働き方にチャレンジしたが、飯田橋への移転はリーマンショック後の時代背景もあり、より効率性を追求する改革となった。

「経営陣からはランニングコストの削減を求められていたため、大幅な面積の縮小を実現しなければなりません。そこで削減メリットを最大限発揮できるようにワンフロア面積の大きなビルを移転先への条件の一つとしました。次に、営業力の強化という点ですが、当社のお客様は大手町や日本橋の金融関係や新宿の通信関係が多い。となると、お客様のもとに迅速に動ける立地、かつ複数の路線や駅を使用できるエリアであることが条件となりました。そしてBCPの強化を考えると耐震性が強固で非常用電源が備えられているビルであること。これらの条件で絞込みを行い、最終的に今のビルに決めました」(湯江氏)

決算前ということもあり本社移転計画は社内でさえオープンにされていなかった。5月にようやく発表。社内に対しても具体的な内容が正式にアナウンスされた。

「移転目的の一つである面積のスリム化。そのため一人当たりの面積を縮小します。しかし単に削減するだけでなく、そこから生まれたスペースをコミュニケーションエリアに割り当てることにしました。その施策を実現させるために導入したのがほとんどの部門を対象にしたフリーアドレスです」(鈴木氏)

「2008年のオフィス改革で導入したフリーアドレスの効果が確認できていましたので、全部門に広げても問題はないと判断しました」(湯江氏)

「3,000名の大移動になりますので、ある程度の管理は必要になります。そこで最初に事務局で『EmpoweredOffice』の考えに基づく改革ガイドラインを作成しました。それを一旦、各部門の移転リーダーに。そこを経由して一般社員に伝えるようにしました。そのように段階的に浸透させることで大きな混乱を招くことを防いだのです」(鈴木氏)

移転プロジェクトは総務部門が全体を、ファシリティ部門が現場を管理する。それに『EmpoweredOffice』を推進する部門として当本部が携わる。「移転事務局は3つの部門で編成しました。そして移転事務局を起点とし、各部門から選出された30名超の移転プロジェクトメンバーと日々連携を取り合って進めていきました」(鈴木氏)

働き方によって場を変化させる機能満載の新オフィス

検討段階には現場から多くの意見が提出された。

「ビルの設備的なことからオフィス全体のスペースに関わることまで色々な角度から質問や要望が出ました。まずは内容を聞く。それから本来の移転の目的や方向性などを話す。そうして個別にディスカッションを行ないながら互いの理解を深めていきました」(鈴木氏)

「最初に報告体制をつくったのが良かったのだと思います。部門長や事業部長を通して報告をしてもらうスキームを確立させましたので個人的な意見や不満を言ってくることはありませんでした」(湯江氏)

短い工期ではあったが、最終的には遅れることなくスケジュール通りに完成を迎えることができた。自社でネットワークシステムの構築や配線工事など含め、一括して構築できる強みを発揮した。

それでは新オフィスの機能について具体的に紹介していこう。大きく4つのキーワードで構成される。

カベをなくしたオープンなフロア

チーム内の連携をとりやすい働き方

  • 組織間の見える化とコミュニケーションの促進
  • 環境変化に合わせて迅速なレイアウト変更
  • オープンで多機能・多用途なオフィス
  • 無線LAN、無線LAN対応プロジェクタ等の活用による効果的な連携 

ノーペーパー・ワーキング

  • " 紙を減らす" から" 紙を使わない" 働き方へ
  • 紙に縛られない働き方の実践
  • 各自がデータを持ち寄り共有することでの議論の活性化
  • それによる業務スピートの向上
  • 紙保管のための共有キャビネットと個人保管スペースの削減

ノーディスタンス・オフィス

離れた場所との距離を感じさせない働き方

  • 物理的に離れた場所との情報ギャップの解消
  • 散在する" 場" との連結

クリエイティブ・ワーキング

新しい発想を育て、次のビジネスを創る働き方

  • 人と情報が交差するオフィス
  • アイデアや意見を誘発させる環境
  • 発想の芽を育て、次世代ビジネスへと思考を広げる働き方

3階 執務エリア〈営業フロア〉

ワンフロア600坪で、オープンなフロアを3つのゾーンに分割して使用している。

「入口から入って手前が『共創』ゾーン。コミュニケーションを活性化させるためのスペースとなります。入居当時は壁で4つの個室をつくっていたのですが、現在は完全にオープンスペースに。そのため現在は10組前後のミーティングが可能になりました」(鈴木氏)

「テレビ会議システムも整備しました。営業拠点が全国に点在しておりますので、今では欠かせない機能の一つです。モニタが足りないという不満から、ipadからも参加できるようにしました」(湯江氏)

「予約不要で使用できるミーティングスペースが数多く用意されており、稼働率はかなり高いですね。また、ここで商品説明会などのイベントを行なうこともあります。そのため全ての什器にキャスターを取り付けており、容易に移動できるようにしています」(鈴木氏)

「お客様の見学も多いですね。まずはオフィスを体感していただく。それがこのオフィスの魅力や価値を理解いただく始まりとなるのです」(湯江氏)

『共創』ゾーン

『共創』ゾーン

その先には『自助』と呼ばれるセルフマネジメントゾーンが。資料作成など集中作業のためのスペースとなる。このふたつのゾーンは社員動線上にあるので、社内の偶発的なコミュニケーションを生み出している。

「オープンにした最大の理由は出会いの機会を増やすこと。頻繁に顔を合わせていれば同じチームになったときに意思の疎通がとりやりやすいですから」(湯江氏

「フロアの一番奥は部門ごとにフリーアドレスを実施している執務ゾーンです。よく固定席化しませんかと質問されるのですが、当社では固定席化するのはマイナスではないと考えています。その場所がその人にとって働きやすいのであればいいだろうと。とはいえ目的は特定の人の痕跡を残さないため。ですから定期的に営業本部ごとの配置自体をシャッフルしています」(鈴木氏)

執務室の特長はいくつかの天井部にプロジェクタを設置していること。フロアを移動せずに全体ミーティングを行える。その内容は全拠点にも配信することがあるという。

セルフマネジメントゾーン

セルフマネジメントゾーン

4階 執務エリア〈SEフロア〉

部門ごとに3つのゾーンに分けている。入口から入った場所には「櫓」。ここが4階の動線の特長の一つだ。そしてフロア中央には人と情報が交わる空間「クリエイティブポイント」を配置している。

クリエイティブポイント

クリエイティブポイント

「カベのないオープンなスペースですから、集まっているメンバーの顔を見ることができますし、話し合っている内容も耳にすることができます。相談したいときに声をかけて、資料もその場で修正ができる。説明もそこで済んでしまうので決済までのスピードが早くなりました」(湯江氏)

そこから少し歩いたところにはディスカッションテーブル。

「ネットワークで繋がっているので資料を見ながら打ち合わせができますし、正面の大きなモニタに接続も可能です。さっと短時間で要点だけ話し合って解散する。ミーティングに時間をかけないように備えている椅子はあえて座り心地の悪いものを選びました」(鈴木氏)

ディスカッションテーブル

ディスカッションテーブル

5階 食堂

食堂

食堂

ここのフロアは、社内用の会議室と多目的な用途として使用できる食堂、カフェが配置されている。

「5階はエレベーターの乗り換え階にあたりますので、そこに共有フロアを設置しました。食堂は300席を設け、食事時間以外は打ち合わせスペースとして使用しています」(鈴木氏)

33階 エンバワードオフィスセンター

エンバワードオフィスセンター

エンバワードオフィスセンター

お客様の課題を一緒に考えるためのスペースとなっている。個人席やチームワークスペース、会議室、ラボなどで構成している。

「私どもがこれからチャレンジしようとしている開発中のソリューションを具現化したり、お客様へのデモンストレーション、お客様と当社の技術者とが検証作業等をしていますね」(鈴木氏)

「一角にはプロジェクションマッピングの技術を用いたスペースがあります。TV会議の概念を越え、すぐ隣に離れたオフィスがあるような臨場感で、雰囲気を共有しながらのコミュニケーションを実現できます。」(湯江氏)

33階 応接エリア

応接ルーム

応接ルーム

様々な広さや用途に応じて10室を用意。どの部屋も落ち着いた雰囲気のデザインでまとめられている。AV装置を完備させ、紙を使わずに、効果的な提案や意見交換を可能にしている。

同社はビル全体の12フロアを賃借している。

「SEは部門によって扱うソリューションが違うため、部門ごとにゾーンを分けています。 そこが営業部門とのゾーニングの大きな違いですね。その他、スタッフや施工部門など、他フロアも業務特性に応じた工夫がなされています」(鈴木氏)

定期的に満足度調査を実施。その結果を次のオフィス改革に活かしていく

新オフィスの移転から4年が経過。社員からの満足度は一定の基準値を維持している。

「満足度調査は全国の拠点も含めて定期的に実施しています。拠点の場合、地域性や事業特性によって課題が異なります。それぞれ違う課題を認識し解決するためにも今後も調査は欠かせません」(鈴木氏)

「私どもは『オフィスは生き物』と捉えています。どこかで進化を止めてしまうと会社全体のオペレーションに影響してしまう。ですから常に改善ポイントを見出しながらオフィスを運用しています。そしてこれからも継続的にオフィス改革を実践していきたいと思います」(湯江氏)