パーソルファシリティマネジメント株式会社

パーソルファシリティマネジメント株式会社

2017年10月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

価値創出を最大化させる場として画期的なライブオフィスを新設した
これからのオフィスのあるべき姿、『ワークスタイル』を多角的に検証する
ライブオフィス、WorkStyle Labo

2017年7月からテンプホールディングスが、パーソルホールディングスに商号を変更。グループ会社の一つであるパーソルキャリア株式会社の画期的なオフィス構築の内容は2017年6月の取材記事で紹介した通りだ。(http://www.sanko-e.co.jp/case/persol-career

今回は、パーソルグループを中心に専門的なファシリティマネジメント(FM)のノウハウを提供してきたパーソルファシリティマネジメント株式会社の移転事例をお届けする

新たにライブオフィス「WorkStyle Labo」を設けたその理由や多様なファシリティ機能について伺った。
http://www.fm.persol-group.co.jp

プロジェクト担当
槌井 紀之 氏

パーソルファシリティマネジメント株式会社
代表取締役社長

槌井 紀之 氏

はやわかりメモ

  1. オフィスで働く最大の意味はコラボレーションにあると考えた
  2. 働き方改革の提案を目的にライブオフィスを構築する
  3. コラボレーションワークを支援するために多様な働く環境を新設した
  4. それぞれの新たなファシリティ機能にはそれぞれの意味がある
  5. 前回のオフィスをフィジビリティスタディと考え、常に改善を進めていく

オフィスで働く最大の意味は
コラボレーションにあると考えた

ファシリティマネジメントの専門会社であるパーソルファシリティマネジメント株式会社。今ではグループ内企業だけでなく大小各社に「働き方変革の提唱」「FMO*注1を活用した新形態のプロジェクトマネジメント」の提案を行っている。*注1FMO=Facility Management Office

「オフィスにおける働き方を考えると、『セルフワーク』と『コラボレーションワーク』とに分類されると思っています。セルフワークは、何人が関わろうとさほど品質に変わりはありません。しかしコラボレーションワークは人と人との知恵の交わりに比例して刺激が変化し、より品質の高いアウトプットを生み出すことが可能になります。そこで次世代のワークスタイルの提案を僕らのオフィスから発信できないかと考えたのです」

そしてオープンコラボレーションの最大化を意識したオフィスを構築したという。

「一般的なオフィスワーカーの仕事を分解してみると、あえて会社の中でやらなくともできるソロワークが存在します。その業務はテレワークやサテライトといった機能を使うことでより効果を生み出します。極端なことをいえば、街中のカフェでもできる仕事もあるでしょう。ですから、セルフワークに関してはもっと生産性を高められるように『最適な働く場を選択する』を考える必要があるのです。その結果、通勤時間とそれに伴うストレスは削減できますし、電話や割り込みなどで集中を途切れさせることもなくなります。そして最大のメリットは、効率化によって生まれた時間やコストをコラボレーションワークに使えることです」

槌井氏が考える「理想のオフィス像」は以下の通りだ。

コラボレーションワークによって生まれる知的生産価値が最大化される場所

・「知のダイバーシティ」×「知の深化」でイノベーションワークを探求
・社員を超えた多様な人材同士の相互刺激を増大
・生産性を向上させる「場」の多様化と能動的な「選択」

働き方改革の提案を目的に
ライブオフィスを構築する

「僕らは、『ワークスタイル変革による、知的生産価値の向上』を提唱してきました。しかし、いざ働き方改革を唱えると、多くの企業は『育児・介護制度の緩和』『雇用システムの改善』『評価制度の見直し』など、ソフト面の見直しを最初に考えるケースが多いのです。おそらく担当者もどこから手をつけていいのかわからないというのが現状なのでしょう。しかし、僕らはハード面を変えないと何も始まらないと考えています。その答えを導くために、まず自社内にライブオフィスをつくろうと。そうすることで企業の担当者に何かを感じてもらえると思ったのです」

今回、分社化した槌井氏の会社とホールディングスのIT部門100名が移転することが決定した。したがって旧オフィスにはホールディングスの一部が残ることになる。そのため移転先の条件は、「旧オフィスへのアクセスが便利な場所」が優先された。その他には、ライブオフィスとしての目的を見据えて「お客様に来てもらいやすい場所」「天井が高いビル」「コストダウンが図れるビル」など。それらの要望を三幸エステートの担当者に伝えた。

「どれも漠然としたものでしたが、色々な方向から提案していただきました。その中には元美術館というとても興味深い候補も入っていたのですが、天井が高すぎて・・。断念しました」

最終的に、旧オフィスに近い場所に立地するメゾネット型のオフィスが選ばれた。

「機能面とコスト面、交通アクセスとすべてがぴったりと合致するビルにめぐり合うことができました。このビルは、吹き抜け部分の天井高が5260mm。初めて見た時からとても印象的でしたね」

コラボレーションワークを支援するために
多様な働く環境を新設した

「さまざまなIT技術の進化によってワーカーの働き方が多様化してきました。当然、ワーカーの働き方ごとにオフィスのあり方も変わってきます。今までは『働く場所』というキーワードに対してイコール『オフィス』という答えしかありませんでした。ところが今はどこでも仕事ができる環境です。自分の業務に合う働く場を自分で主体的に選ぶことができる。働く場所の選択肢が増えています」

それだけにオフィスの存在意義についてしっかりと考えた。

「導き出した結論は、『多様な知性のダイバーシティが形成されている』『同じベクトルでその知性を活用・深堀する』『非連続の相互刺激に溢れている』だった」

オフィスに来ることで、自分の持っている価値が最大限化する。それがオフィスに求められる意義だと語る。そのためには、一方的に受取るのではなく、相互に与え合う刺激でなければならない。そんなことを考えて多様な働く環境を用意したという。

以前、大手町のビルにグループ会社のオフィスを構築した際は、窓際に個人席を設けたり、集中席を設置したりとソロワーカーのためのエリアを充実させていた。

「今回のオフィスにはソロワーカーのためのエリアはあまり設けていません。もちろん色々な働き方が存在しますが、ここでは『コラボレーションワークによる価値の最大化』をコンセプトにしたオフィスとして見ていただければと思います」

上階から見たコラボレーションエリア

上階から見たコラボレーションエリア


ウエルカムラウンジ

ウエルカムラウンジ


それぞれの新たなファシリティ機能には
それぞれの意味がある

「新オフィスは上下にフロアがあるメゾネット型です。合計の面積は280坪。そこに150名のワーカーが働いています。先ほどから、コラボレーションが重要とお話していますが、コラボレーションワークの中でも何種類ものコラボレーションに分類されると思っています。ですから、コラボレーションタイプごとに最適なファシリティを用意しました。どんなに会社側が『コラボレーションをしよう』と声高に叫んでも、人の行動は変わりにくいものです。ですからワーカー全員が自然と行動に繋がるような仕掛けづくりを行いました」

それではコラボレーションワークをコンセプトとした新オフィスを紹介していこう。

「エントランス周りのオープンスペースは『ウエルカムラウンジ』と名付けました。外部の人と接点を持つためのゾーンとなっています。応接は4人用、6人用、8人用を用意しました。どれもオープンなつくりですが、ほんの少しだけ袖壁を付けています。この少しの袖壁があるだけで機密性が大幅に高まるのです」

そしてガラス壁から内部がセキュリティゾーンとなる。奥には、1人用、2人用の作業スペースを用意。主にソロワーク業務に使われる。

「コラボレーションをコンセプトにしたオフィスとはいえ、情報整理や資料読みなどの業務は絶対的に存在するものです。ですから少ないスペースではありますが、次のコラボレーションに備える場所も用意しました」

ライブラリ

ソロワークエリア


Inspire Stadium

Inspire Stadium


個々の準備が終わると、中央のコラボレーションエリアに移動をする。

「最大級のコラボレーションはこのエリア全体を使ったコワーキングとなります。天井に備えたスクリーンとプロジェクタを使って行います。100名規模になることもありますね」

「Inspire Stadium」と名付けられたこのゾーンは、相互刺激を与え合うセミナーや勉強会が行われる。

その奥には「High Voltage」。「話す・聞く・書く」に重点を置いたアウトプット専用ゾーンだ。「フューチャーセンター機能として存在していますが非常にアナログな施設です。お互いの考えをぶつけ合うために原則パソコンの持込を禁止にしました。ですから電源コンセントもありません。そのかわり思いついたことをすぐ書けるホワイトボードの壁を全面に取り付けました。アウトプットが出てくるまで退出できないルールになっています。ですから長時間になりやすい。だから靴を脱ぐ。まるで小学校の板張りの体育館のようだとよくいわれます」

その隣にはグループ全体としても初めての試みである「Dad&Mom Room」。育休中、育休後の復職後のパパやママによるコラボレーションを支援する。

「近年、女性労働力の活用が問われていますが、残念ながら思惑通りに進んでいないように思えます。人事制度を緩和してフレックス制度を導入する企業も増えていますが、保育園などの送り迎えの時間は変わりません。何かちぐはぐですよね。この問題を解消するためにどうすればいいのか。それならば子どもを会社に連れてくればいいと。それが社会的課題を解決する一つの策ではないかと思ったのです」

子供を連れてくるデメリットを議論する会議は行わなかった。まずは施設をつくってみる。そこで出た意見こそが大事だと考えたからだ。

「このチャレンジのポイントは『ワーカーの許容力』だと思っています。子どもの声がうるさいとか、走り回っていやだとか、そんな低次元のことを実施する前から議論していては、社会課題なんていつまでたっても解決できません。ここで試したのは過去の規制を取り除くことと、ワーカーの許容力がどこまで上げられるかってこと。幸いここはラボなので、色々なことを試しながらその中でソリューションを見つけられればいいと思っています。成功でも失敗でも、最終的に企業の皆様の役に立つ事例になればいいのです」

子どもを連れてきた社員同士が、互いの子どもの面倒を見る。あくまでも相互補助のため、保育士は必要ないと語る。

「法的にはここは託児所ではありません。デパートでいうところのキッズルームの延長となります。とはいえ、保育士免許を持っている社員も採用しましたので対応は万全です」

さらに進むと「Discovery / Explore」。全員参加型のディスカッションを促す部屋だ。

「参加者全員が主催者であり聴衆となります。一旦座り込んでしまうと腰を上げにくくなるという心理的な行動を考えて、スタンディングとシッティングの中間となる椅子を採用しました。そして誰もが参加しやすいように扉を撤去。通りがかかりに興味を持てば遠慮なく入っていけ!、というメッセージで完全オープンなつくりにしています」

部屋を出ると廊下の一角に「Drop in Point」。打ち合わせが終了後でも、個人的に討論の延長を望むもの同士が使用する。せっかくコミュニケーションが生まれたのに別の時間に仕切りなおすのは生産性のロスと考えたからだ。それ以外にクイックなミーティング目的で最初からここで打ち合わせを行うワーカーも多いという。

High Voltage

High Voltage


Dad & Mom Room

Dad & Mom Room


Discovery / Explorer

Discovery / Explorer


内階段を上がるとバルコニー部分の6階になる。まず目にするのは「ブーストカフェ」だ。

「リチャージ、つまり次の仕事のための充電を目的としています。あくまでも食事と会話と仮眠の場。最近、多目的ゾーンとして何でもありの機能を設ける企業が多いのですが、仕事をしている人の隣で休憩はしにくいといったワーカーの声もあり、このカフェ内での業務は一切禁止としました」

150名のワーカーに対してカフェの広さは小さい。それも当初からの狙いだという。

「たくさん席を用意してしまうと、既存のコミュニティ同士で使用することになりかねません。そこでできるだけ人が密集し、新たなコミュニティが生まれることに期待をしたのです。実際に、新たなコミュニティが圧倒的に増えている感じがします」

カフェの前にも「Quick Presentation」を配する。この場所が検証の結果、一番スペース効率が良かった。12席が用意されているが、違うグループ同士が使用する場合はスクリーンによる間仕切りが可能だ。

そして6階にも非連続のコラボレーションを推奨する「Mini Stadium」を用意した。

「マグネット効果を狙ってあえてカフェの近くに配置しました。いくら頭ごなしにコラボレーションを推奨してもいきなりではハードルが高いと思い、内側と外側に分けました。そしてスポーツ観戦で外野から野次を飛ばすように意見をもらえればいいと思っています。そこで発せられた些細な一言がコラボレーションを活性化させると信じています。内・外と合わせて20名超が座れますので、小さなセミナー会場と同じ機能がこのスペースでまかなえます。稼働率の高い人気スポットになっていますね」

その奥には「モニターワークゾーン」。ソロワークを支援する場所で大型のモニターを常設している。

「当社のワーカーはノートPCで仕事をしているのですが、より大きなモニターを使うことによって生産性が高まるという場合は、ここで作業を行っています。具体的にはCAD画面や膨大なエクセルでの分析などですね。比較的にいつも席が埋まっています」

その他、オフィス全体でいうとキャビネットの少なさが特長だという。

「まず、移転前に各自の資料の必要性について見直しました。それによって鍵のかかる場所に入れる必要のあるもの、社内に一つあれば済むもの、重要度は低いが必要なもの、などを区分したのです。それからコラボレーションエリアやスタジアムの下に床下収納のスペースをつくりましたので、機密性の低い書類はそこに収納。個々に保持していた書籍やカタログは共有資産として書棚に。そうすることでそこでもマグネット効果を生み出します。そうして削減したキャビネット分のスペースはコラボレーションのために使用しています」

Drop in Point

Drop in Point


ブーストカフェ

ブーストカフェ


Quick Presentation

Quick Presentation


MiniStadium

MiniStadium


モニターワークゾーン

モニターワークゾーン


床下収納

床下収納


前回のオフィスをフィジビリティスタディと考え
常に改善を進めていく

「オフィスは『生産』と『投資』のシーソーだと思っています。『生産』を重くするには、『刺激・成長・楽しさ』を加える必要がある。だからこそ誰からも刺激を受けずに、誰にも刺激を与えられないオフィスは本来の意味を成していないのではないでしょうか」

あくまでも現時点での同社の考えだ。そしてその考えは常に変化していく。

「今年6月に大手町で構築したオフィスを実験材料の一つと考えて、ここのオフィスに活かしました。僕らにとって、ここのオフィスはラボに過ぎません。ですから今後の検証の結果で内容が大きく変わることもあるかもしれないのです」

これから、ワーカーへのアンケートや有効率、稼働率などを分析していく。ラボという特性を活かして常に改善・改修を加えていくという。

「定期的にアンケートを繰り返し行い、現状の使い方や不満を記入してもらいます。それをもとに全社員を対象にしたワークスタイルセッションという働き方変革に対する集会を行う予定です。自分たちにとって目指すべきワークスタイルの確認をする。そして改善していく。このサイクルを継続させ、社内外によりよいワークスタイル・ワークプレイスを提案していきます」