- 旧オフィスの課題改善を目的に働きやすい環境を構築した
- 経営戦略を進める中でオフィスを新設した事例
- 段階的に全国拠点のオフィスプロジェクトを遂行した
旧オフィスの課題改善を目的に働きやすい環境を構築した
2018年に「先進オフィス事例」で紹介した企業(1月~12月掲載)は16社。その内訳は、情報通信・IT系企業9社、サービス業4社、専門・コンサルタント業2社、学校・教育産業1社だった。そのほとんどの企業が人員増員による「拡張」を移転理由とし、執務室以外にもミーティングスペース不足を課題にしていた。
業務の効率化をテーマにビジネスチャットの開発・運営を行う「ChatWork株式会社」の移転事例も拡張が理由であった。急激な事業拡大とビジネス部門の強化を理由に急激な人員増に。セールス部門も増えてくる中で交通アクセスにも配慮する必要が出てきた。そこで都心部への拡張移転を決断したという。内装デザインも、単にカッコいいだけでなく、働き方改革の見本となりうるChatWorkらしいオフィスを構築。社内外のコミュニケーションを活発にするために30名が座れるシアタールームや大カウンターを設置した。これら構築したオフィスはブランディングやリクルーティングといった別の視点でも効果が期待できると語る。
ChatWok株式会社:シアタールーム
株式会社ウエルクス:リフレッシュルーム
福祉や介護といった国内外の社会問題の解決を目指して設立された「株式会社ウエルクス」もスペース不足を課題としていた。今回の移転計画では、「1フロアに集約できる面積」「旧オフィスとさほど離れていない場所」「ターミナル駅近くに立地するオフィスビル」を条件に設定。エリアの見直しから始めた。移転先に決めたビルは商業施設やシネマコンプレックスも入る大規模複合ビルで、自社のブランディングも向上できたと語る。新オフィスは色々な業務に対応できる会議室やリフレッシュルーム、ミーティングルーム、オープンスペースを充実させた。今後も機能性を重視し、働き方を改善していくという。
株式会社Phone Appli:CaMP
「株式会社Phone Appli」はクラウド上で名刺情報を閲覧・発信できるサービスを提供。いわば「働き方改革」を商品にしている会社となる。今回の増床移転をきっかけに従業員一人ひとりが誇りを持てる環境づくりに取り組んだ。同社の新オフィスは一般公開しており、「新しい働き方」のスムーズな提案が可能となった。その名称は「CaMP(Collaboration and Meeting Place)」。コンセプトは「自然と、自由に、コミュニケーション」。アウトドアメーカーの協力を得て、実際にキャンプ場で使われている机や椅子でオフィスを構成。オフィスを人と会うための場所と定義した。
中小企業を中心にWeb広告サービスを効率的に提供している「株式会社カルテットコミュニケーションズ」は名古屋に本社を置く。オフィスコンセプトは経営方針同様に「効率化」。少しでも効率的に時間を使えるように来客者用の応接室は1ヵ所に集中させ、セミナールームも新設した。採用面接の際にそのままオフィス見学が可能なためプロセスも効率的になったと語る。先のPhone Appli社同様に執務室の中心にテントやアウトドア用品を使ったコミュニティスペースを配置している。同エリアは完全な休憩スペースと定め、リフレッシュすることによる斬新なアイデアの立案を目的とする。今後も効率化を追求しながら働き方を改善していくという。
株式会社カルテットコミュニケーションズ:コミュニティスペース
ブラウザ上で簡単にアプリ制作ができるプラットフォームを提供している「株式会社ヤプリ」は2013年4月に3名で創業。BtoBへと事業方針を変換後、急激に事業が拡大。それに比例して社員も増加しスペース不足に。次第に外部のカフェの利用が常態化し、セキュリティ面や別フロアのスタッフとのコミュニケーション不足などが課題となっていた。新オフィスは風通しの良さを狙いとしていたため、極力仕切りをつくらず、フロアの隅々まで見渡せるレイアウトを構築。固定席部分も机を直線的な並びではなく、偶発的なコミュニケーションが生まれる仕掛けとした。オフィスレイアウトの工夫で働き方を変えた好例といえる。
株式会社ヤプリ:コミュニケーションスペース
求人情報サイトの運営で全国展開を行っている「ディップ株式会社」は2018年に大阪支店のオフィス移転を行った。旧オフィスの手狭さでは働き方も改善できない。そこでハード面の整備を第一優先としてオフィス移転を行った。エントランス周りはミーティングルーム、執務室内にはオープンテーブル、マッチ箱と呼ばれるオフィスステーション。窓際に集中スペース、多機能のカフェなど、オフィス内の基本構成は総じて東京本社と同じとした。さらにデスクをさまざまな角度で配置、机の高さにもバリエーションを持たせている。
ディップ株式会社:オープンテーブル
株式会社ネットプロテクションズ
後払い決済サービスのパイオニアである「株式会社ネットプロテクションズ」も拡張の必要性に迫られてオフィス移転を行った事例となる。移転先には、オフィス面積、周辺環境、交通アクセスなどを総合的に検証。全く違うエリアへのオフィス移転を行った。新オフィスのコンセプトは「働くというより、話そう」。会話こそが重要なファクターとし、数多くのコミュニケーションポイントを設置した。新オフィスは連続階で3フロアを使用。用途を決めてゾーニングをしている。ワークスペースフロアには、ドアのない会議室、身体感覚を刺激しながら行う会議室といった斬新なアイデアも盛り込んでいる。これらは自由な社風のアピールにもつながり、採用にも影響を与えているという。
経営戦略を進める中でオフィスを新設した事例
グループ内企業だけではなく「働き方変革の提唱」「FMOを活用した新形態のプロジェクトマネジメント」の提案を行っている「パーソルファシリティマネジメント株式会社」。分社化に伴って、ホールディングスのIT部門100名を移転させた。新オフィスはオフィス全体を画期的なライブオフィス「WorkStyle Labo」として公開している。同社では新オフィスをフィジビリティスタディと考え、常にトライアンドエラーを繰り返しながら、働き方を改善していくという。
パーソルファシリティマネジメント株式会社:ライブオフィス「WorkStyle Labo」
「1年で英語がマスターできる」をプログラムとして英会話スクールを運営する「トライオン株式会社」。スタートから2年半で8校をオープンさせた。各校のデザインコンセプトは受講生やスタッフのドキドキ感を大事にしたいという思いから「機能は同じ、ただしデザインはセンターごとに変える」を方針としている。当初のデザインコンセプトは「高級感」であったが現在は「温かさ」。今後も、会話のしやすさや居心地の良さを大切にしていくという。
トライオン株式会社:コラボレーションエリア
ソーシャルゲームのパイオニアであるグリー株式会社からの分社を機にオフィス移転を行った「ファンプレックス株式会社」。移転ではファンプレックスらしい働き方やアイデンティティを醸成すること、災害などの緊急事態に備えてのBCP対応を目的とした。新オフィスはワーカーが自由に働く場所を選べる仕組みABW(Activity Based Working)を採用。執務エリアをコア側に、その周囲に会議室やいくつものオープンスペースを配置した。なお、本オフィスはグループ全体のサテライト的な役割も果たしている。グループ内交流から多角的なアイデアが生まれ、それがグループとして最大限の力を発揮することを目指す。
ファンプレックス株式会社:オープンスペース
「株式会社楽天」は運営するフリマアプリ「ラクマ」の業務拡張を理由に、カスタマーセンターの開設を行った。開設にあたりBCPの観点で考察し、関東エリア以外の主要都市を調査。自治体の制度や特性を比較する。人口構成、助成金制度、専門学校や大学の数、東京からのアクセスを考えて新潟市への進出を決定した。新オフィスでは個々で行う業務が中心になるため、体系的な業務をより効率的にできることが重要と考えた。室内はリフレッシュできる空間とコミュニケーションを取り合える空間にスペースを割き、働きやすさを重視している。
株式会社楽天(ラクマ):コミュニケーションスペース
段階的に全国拠点のオフィスプロジェクトを遂行した
PwC Japanグループ 東京オフィス:クロス・ロス・カフェ
「PwC Japanグループ」は中長期的にオフィスプロジェクトを実施した。最初のプロジェクトは名古屋オフィス。大規模なリニューアルプロジェクトだった。同オフィスの一番の特長は、定期的に行っている会議の場所を確保するために可動式の間仕切りを効果的に活用したこと。その他、ライブラリやコラボレーションエリアも新機能として加えた。
次に実施したのが「東京オフィス」のプロジェクトとなる。1フロア面積450坪×10フロアで使用していたオフィスを1フロア面積1000坪×4フロアに集約統合。
もちろん立地改善も行っている。移転により、社内間の行き来が容易になりストレスも軽減できたという。新オフィスでは多様なワークスタイルへの対応、最新テクノロジーの活用、スタッフ間のコラボレーションの促進を可能とした。
東京オフィス完成後、新しい発想を喚起させる仕組みを実現させるために「エクスペリエンスセンター」を新設する。サンドボックスと名付けたセッションを目的とする場の新設が特長となる。これにより今まで以上のイノベーションを創出させる。
最後が「大阪オフィス」の移転プロジェクトだ。税理士法人を含めた4法人が統合。これは監査法人として初めての試みとなった。監査法人である以上クローズの部屋は必須であるが、ベースにはフリーアドレスを導入。コラボレーションを考えた働き方を実践している。
国内最大級の企業データベースを保持する「株式会社ランドスケイプ」も常に働き方を意識したオフィスリニューアルを実施している。日々のワクワク感を大事にするためにテーマパーク型オフィスを構築し、働く社員の意識や気分を変えることを目的とする。デザインだけでなく、運用ルールや社内制度、働き方も積極的に改善しているという。
株式会社ランドスケイプ:テーマパーク型オフィス
勢いのあるベンチャーらしく、「移転は勢いと流れだ」と語るのがインフルエンサーマッチングプラットフォームを展開する「LIDDELL株式会社」だ。同社は、組織の成長はオフィスの広さに影響すると考え、さらなる成長への期待を込めてオフィス移転を進めた。オフィスコンセプトは、訪れたインフルエンサーたちが何度も来たくなるような「人の感性が融合するオフィス」。Instagramに投稿をしたくなるように場所ごとに世界観を変えたデザインとなっている。
LIDDELL株式会社:応接ルーム
市場調査のパイオニア「株式会社社会情報サービス」は手狭感やコミュニケーションの向上を課題に、ゆるやかに移転の検討をしていた。そこにエリアの「再開発計画」という決定的な理由が重なり移転を実施した。移転により、執務室フロアとリサーチのためのインタビュールームを上下フロアで分ける理想的なゾーニングができたという。新設のインタビュールームは新規営業への促進がしやすくなったという効果も生まれている。以前の分散オフィスと違って、社員のモチベーションやコミュニケーションも向上。オフィス改善を働き方改善につなげている。
株式会社社会情報サービス:インタビュールーム
ITトータルソリューション&サービスの「日本事務器株式会社」はトップダウンで働き方改革を決断した。必要な要素として「Work Place(働く場の改革)」「IT Solutions(デジタルワークスタイルへの変革)」「Change Management(考え方や行動を変えるための手法)」の3点を挙げ、それぞれの要素を掛け合わせた新しい働き方にチャレンジしている。今回のプロジェクトは全国24ヵ所の拠点を順次リニューアルしていくというもの。規模こそ違うが、同コンセプトのオフィスを拠点ごとに構築。本社オフィスはフロアを増床、移動をしながらプロジェクトを行った。用途別にコラボレーションが行えるようにさまざまな機能を備えた。今後も企業風土を変える覚悟で行動を起こしながら働き方改革を進めていくという。
日本事務器株式会社:コラボレーションエリア
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