vol.7 オフィスラブはなぜ多い!?心理学でひもとく「職場恋愛」のしくみ

vol.7 ~オフィスラブはなぜ多い!?心理学でひもとく「職場恋愛」のしくみ~

夏がやってきました。開放的な気分になれる夏休みも目の前ということで、今回は少々やわらかめのテーマ「オフィスラブ」について心理学的に解説していきます。

オフィスラブはご法度という会社の方も、ぜひ横目でご覧ください。そうでない会社の方であっても、みなさまもオトナであるからして、過剰な期待をいだくことなくお仕事に取り組んでまいりましょう。

<今月の4コマ>
※このまんがはフィクションです。実際の人物や団体とは関係ありません。

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何度も会うから好きになる

アメリカの心理学者、ザイアンスが提唱する理論に「単純接触効果」というものがあります。これは、同じものを何度も見聞きするたびに好感度が高まるというもので、繰り返し見たCMに出ているアイドルを「なんかいいな?」などとおものはこの効果が働いています。恋愛においてもこれは同じ。何度も顔を合わせることで好感度が高まり、会話をすればお互いを知れば知るほど好きになる「熟知性の原理」がはたらきます。毎日のように顔を合わせるオフィスはそもそも、恋が生まれやすい条件が整っていると言えるでしょう。

ただし、単純接触効果は、会えば会うほど無限に効果が上がっていくわけではありません。実験でも、最初の数回は上がっていくものの、その後は上げ止まりの状態になります。恋は生まれやすいとはいえ、過剰な期待は禁物といったところでしょうか。

上司と恋に落ちやすいワケ

部下から見れば上司はたいてい、自分より知識や経験があるものです。尊敬の気持ちが好意につながるというのはよく聞く話ですが、部下が上司を好きになりやすい要素というものもあります。

人間は誰でも「自分の存在を認めてもらいたい」という気持ちを持っています。これを承認欲求といいますが、SNSで「いいね」がたくさんつくと嬉しいように、仕事でも周囲から褒められたり、評価されたりするのはとても充実感が得られるものです。職場では、褒めたり評価したりする役割はたいてい、上司が担っています。「この間のプレゼン良かったよ」「君は仕事が早いね!」などと言われているうちに好意が育っていくことは少なくありません。

また、仕事においては必ずしも順調なときばかりではありません。ミスをして落ち込んだり、失敗から立ち直れなかったりすることもあるでしょう。「自分は本当にダメな人間だ」などと自己評価がダウンしているとき、親身になってくれる人には好意を抱きやすいものです。グチを聞いてくれる同僚や励ましてくれる後輩でも良いのですが、親身になって耳を傾け、励ましてくれる上司がいたならば強い魅力を感じても不思議はないでしょう。

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力を貸してあげたのは好きだから!?

これまでなんとも思っていなかったのに、急に同僚が気になり始めて......そんなドキドキの展開のウラにも、心理のいたずらが働いているかもしれません(いたずらとはいえ、最終的に幸せなら良いのですが)。

たとえば、ハリウッド映画などでは生死を分かつような危機を乗り切った後、主人公たちが愛を確かめ合うようなシーンは非常に多いもの。オフィスで生死に関わるようなトラブルはあまりないと思いますが、仕事でハラハラするような修羅場を一緒に乗り切った男女が恋に落ちやすいのは事実です。これはドキドキや高揚感を恋と勘違いする「錯誤帰属」という心理によって説明できます。

また、人は心と行動が一致していないと気持ちが悪いと感じてしまう生き物です。たとえばイソップ童話の「すっぱいぶどう」という逸話。キツネが木の上においしそうなぶどうを見つけるものの、ジャンプしても届きません。キツネは「どうせすっぱくてまずいに違いない」と言って立ち去るのですが、こうやって「ぶどうがおいしそう」「食べられない」という矛盾した状態は気持ち悪いのです。それを解消するために「どうせすっぱい」と気持ちの折り合いをつけて気持ち悪さを解消するのですね。これを、心理学で「認知的不協和理論」といいます。

たとえば、仕事が遅れている人を手伝ったり、見かねて一緒に残業したりといったケースでは「自分はやりたくないことをやっている」という気持ちが生まれます。この認知的不協和を解消するために理由を探すわけですが、それが「この人のことが好きだから仕事を手伝ったのだ」というふうに自分を納得させて本当に好きになる、というケースがあるのです。

もちろん恋は何かひとつの要素で突然始まるというものでもなく、複数の要素が絡み合って起こることもままあるものです。ただ、もし気になる人が「残業手伝おうか?」なんて言ってきてくれたなら、チャンスと思ってお願いしてみるのもひとつの手かもしれませんね。

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心を焦がしたあの恋も、実は錯覚だったのか!? と思った人もいるかもしれませんが、結果的に良い関係を育めたならそれもまたアリなのでしょう。恋愛は、ときに仕事にも良い影響を及ぼすことがあります。相手にいいところを見せたいと思って頑張ることができたり、お互いにグチを聞いてあげることでストレス解消につながったりすることもあるでしょう。もちろん会社ですから、仕事が第一であるべきなのは確かですが、ほどよく楽しんでいけるといいですね。

監修:赤木麻里

フリーライター。学習院大学文学部日本語日本文学科、東京福祉大学心理学部卒。
書籍やウェブサイトを中心に幅広く執筆を行う中で、特に思想、哲学、心理学の分野で多数の執筆協力、コンテンツ提供を行っている。

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