vol.8 ~OKしてもらえる!心理学的に正しい交渉術~

頼みづらい用事をお願いしたり、無理めな調整をしなければならなくなったり......オフィスではそうした「交渉」が必要になる場面がいっぱい。「断られたらどうしよう」「そもそもなんで自分がこんな役目を......」と思ってしまうような状況では、なんとも胃が痛いと思えることも多いでしょう。

大切なのは熱意や論理、下準備かと思いますが、それらをちょっとだけ後押ししてくれるような心理学テクニックをご紹介しましょう。

<今月の4コマ>
※このまんがはフィクションです。実際の人物や団体とは関係ありません。

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超基本!営業マンがよく使う3つのテクニック

知っておくといろいろと応用がきくのが今からご紹介する3つのテクニック。ほどんどの方が名前くらいは知っているかと思いますが、いざ使おうとするとうっかり忘れてしまうことも多いものです。普段から「こういうときはこのテクニックで攻めてみよう」などとシミュレーションしておくと、パッと使えることも多いですよ。

①ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック

最初に少々無理だろうと思われる大きな要求をして、相手が断ってきたところで小さな要求に切り替える方法です。たとえば飲み会のとき、部長にちょっとだけ大目の1万円を出してほしいとしましょう。素直に「1万円お願いします!」と言ったら、ケチな部長は「そんなに出せないよ!」と断ってくるかもしれません。ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックを使うときは、敢えて「部長!3万円お願いします!」といいます。ケチな部長は当然「無理無理!絶対無理!」と断ってくるでしょう。そこで「ですよね......じゃあ1万円でいいからお願いできませんか?」と持ちかけるのです。

たとえそれが過大な要求であっても「断る」ということをすると人は少なからず良心がとがめるものです。そこに小さな要求を持ちかければ、相手が譲歩してくれたと感じて受け入れやすくなるのですね。

②フット・イン・ザ・ドア・テクニック

最初は簡単な要求をし、受け入れてもらえたら次には大きな要求をするというテクニックです。繰り返していけば無理な要求も聞いてもらいやすくなります。

たとえば春の飲み会でケチな部長に「なんとか5,000円でお願いします!少しだけ何卒!」と出してもらったら、二次会では「10,000円で!!」とお願いするといった感じです。人は自分の言動を一貫したものにしたいという心理があり、一度引き受けたら次も引き受けなければという気分になりやすいのです。一度目のお願いのときにしっかり喜んで、誠心誠意お礼を言うことでより受け入れてもらいやすくなるでしょう。

③ローボール・テクニック

最初に条件を出してOKしてもらった後、後からその条件変更するというものです。たとえば飲み会でケチな部長に「部長だけ5,000円でお願いします」と言っておき、OKをもらったところで「OKいただきありがとうございます。予算が上がったので8,000円でお願いします」と言うやり方です。②の「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」と同様、人は自分の意見や態度を一貫させたいという思いから、「ええ?......それはないよね」と思いつつも聞いてしまう、という方向に気持ちが動きやすくなります。

ただし、ローボール・テクニックは効果的とはいえ、信用をなくすことは想像に難くないテクニック。特にビジネスの世界では、使わないようにしたいものです。

理由を添えてお願いする

どうしてもこの仕事を先に進めて欲しい。そんなふうに、頼み事をする際は理由を添えると受け入れてもらいやすくなります。これは「カチッサー効果」と呼ばれるもの。心理学者のランガーが実験したところ、コピー機を使っている人に「先にコピーを取らせて」とお願いするとき「急いでいるので」「先にコピーしなくちゃいけないので」と"理由"を添えたところ、格段に承諾率がアップしました。よくよく見ると、この理由は順番を譲らなければならないほどの説得力あふれる理由ではありません。どちらかというと自分勝手なだけですが、それでもOKされやすくなるのです。

「急いでいるので、この仕事をお願いできませんか」「話がしたいので、時間をとってもらえませんか」など、一言理由を添えてみると、あなたのお願いはグッと受け入れてもらいやすくなるかもしれません。

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「ちょっとだけ」が相手の心理的ハードルを下げる

「時間をください」「話を聞いてください」とお願いしても「忙しいから後にして!」と切り替えされてしまうときは、ごくごく小さいお願いをしてみると良いかもしれません。「3分で済みます!」「1分だけでいいですから!」と頼み込むわけですね。これは「イーブン・ア・ペニー・テクニック」というもので、相手は「そのくらいなら」と思いやすかったり、そこまで小さな依頼なのに断る後ろめたさを感じたりして、お願いを聞いてくれます。そしてたいていの場合、実際にはもっと長い時間を割いてくれるのです。時間に限らず、モノや労力なども当てはまります。

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ここに挙げたようなテクニックは、現在では知っている人も多く、あまりにあからさまにやると小賢しい印象を与えてしまうこともあります。いつ何時でも、自分のメリットだけでなく、相手のメリットも考慮した上で使うのが一番でしょう。たとえば、自分が売り込みたい物のメリットだけを伝えるのではなく、デメリットも合わせて伝える「両面提示」では、相手はデメリットを知ってもなお、良い印象を感じて制約につながりやすくなります。騙そうとするのではなく、相手にとってのメリットも与えることで、最終的には信用され、長期的な利益につながることでしょう。なお、本文中に出てきた「ケチな部長」はあくまで例えであり、実在はしません。どうぞご安心を。

監修:赤木麻里

フリーライター。学習院大学文学部日本語日本文学科、東京福祉大学心理学部卒。
書籍やウェブサイトを中心に幅広く執筆を行う中で、特に思想、哲学、心理学の分野で多数の執筆協力、コンテンツ提供を行っている。

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