2017年のオフィス移転事例を振り返る

2017年1月~12月掲載

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

オフィス移転事例に見る最新オフィストレンド

日本経済新聞社が上場企業・有力非上場企業602社を対象に「働きやすさ」の視点で格付けを行った調査「スマートワーク経営調査」によると、上位企業はいずれも働き方の改善を実施し収益向上につなげていることがわかった。「働きやすさ」や「オフィス戦略」がどのように企業経営に影響を与えているのか。当社が2017年にサイト上で公開した移転事例を振り返り、その傾向について考えてみた。

はやわかりメモ

  1. 働きやすい環境を整えて課題の改善につなげる
  2. 設備の改善を目的に移転。新機能を追加した事例
  3. 今後は企業ブランディングを意識したオフィス移転も

働きやすい環境を整えて課題の改善につなげる

2017年に「先進オフィス事例」で紹介した企業(1月~12月掲載)は13社。その内訳は、情報通信・IT系企業3社、サービス業3社、コンサルタント業2社、製造業2社、専門商社、航空運輸、金融業がそれぞれ1社だった。移転理由としては、その多くが人員増員による「拡張」。特に「スペースの足りなさ」からなる「コミュニケーションの低下」といった課題解消を目的にした移転が多かった。

「株式会社Gunosy」は事業拡大からなる大幅な増員を理由にオフィス拡張を行った。当初は執務室内のオープンスペースを削ることでデスクスペースを確保していたがそれにも限界が。特長的な多目的スペースを削減すれば対応はできたというが、社員に好評だった施設は削減できないとの思いから移転を決断した。オフィスの立地を変えたくないため、同ビル内の別フロアで移転を実施。今後の採用計画も考慮して約2倍の面積に拡張した。今後、自社開催の説明会などで来社数が増えることを想定し、新たにセキュリティ面にも配慮。「透明性とセキュリティの両立」をテーマに新オフィスを構築した。

「パーソルキャリア株式会社」も同ビル内にオフィスを設けた事例となる。同社の場合はフロアの増床。増床フロアで「刺激」をコンセプトにしたオフィスを構築している。ちょうど「テンプホールディングス」から「パーソルホールディングス」に商号変更を行った時期で、ブランド認知度を高める必要性を感じていた。タイミングの良い移転だったため、いい機会と捉えて大胆なオフィス改革を行った。目的は、オフィス全体でコラボレーションワークを実現できる環境の構築。そのため社員同士が刺激を与え合えるようなコワーキングエリアを中心としたオフィス構成となっている。またコワーキングにも分類が必要と考え、それに合う何種類ものファシリティを用意したことが他社にない特長といえる。

ガラス扉を挟んで。セキュリティエリアとオープンエリア(Gunosy)

ガラス扉を挟んで。セキュリティエリアとオープンエリア(Gunosy)

特長的なコワーキングエリア(パーソルキャリア)

特長的なコワーキングエリア(パーソルキャリア)

PCO(Pest Control Operator:環境・建物衛生管理業務)のパイオニアである「イカリ消毒株式会社」の移転理由は「手狭さからの解消」。旧オフィスは簡単な打合せをするスペースもなかったという。そのため新オフィスのコンセプトは「コミュニケーションを強化した風通しのいい社風に」と「新しい働き方の追求」とした。新オフィスでは、コミュニケーションを活性化させる様々な仕掛けを採用。執務室エリア中心部には「社内コミュニケーション」を目的とする多目的エリアを設けた。そうして旧オフィスでの課題解消をするとともに、フリーアドレス、クリアデスクを実現。現在ペーパーレス化に取り組んでいる。

その他、分散したオフィスをワンフロアへ集約するケースも目立った。

「バイトル」「はたらこねっと」などのアルバイト・パート求人情報サイトの企画・運営で急成長している「ディップ株式会社」の移転条件は次の4項目。「ワンフロアに本社の全員が収容できる」「ビルのグレードが劣らない」「入館時のセキュリティが高い」「災害時に安全性の高い設計」。それらの条件をクリアした大規模新築ビルへ統合移転を行なった。新オフィスでは、手狭感を解決し、コミュニケーションの活性化を図るためにいくつもの新機能が追加された。特に複合機やデジタルサイネージなどのいくつもの機能をまとめた通称「マッチ箱」と呼ばれるオフィスステーションが特長的で、偶発的な出会いを演出している。

「マネックスグループ株式会社」も統合による業務効率の改善を目指した移転例の一つとなる。ビル内での増床を重ねながら都内2拠点体制を維持していたが、ついに限界に達し統合移転を決断。上下階にフロアは分かれてはいるが、拠点間の距離が離れていた旧オフィスと比べて業務効率は大幅に向上された。また、2拠点で重複していたオフィス機能を統合したため、使用面積もかなり削減でき余裕のある空間構成となった。削減分のスペースには新たにミーティングスペースやマグネットスペース、コラボレーションエリアを新設。アイデアが生まれやすい環境をつくり、社員同士のコミュニケーションも飛躍的に活発になっている。

「株式会社リジョブ大阪支店」は、約4倍もの広さに拡張した拠点展開の事例となる。優秀な人材を確保するためにオフィスの改善計画を実施した。特長的なのは、東京本社同様にかなりの割合の面積をコラボレーションエリアである「芝生のある公園」が占めていることだ。ここは同社のブランディングイメージでもあるため、妥協せずに作り込んだという。公園では、通常業務以外に、社内ミーティング、社外の方との打合せ、休憩、企業説明会など、多くの方とのコミュニケーションの広がりを求めてつくられた。

中心部に配置した多目的エリア(イカリ消毒)

中心部に配置した多目的エリア(イカリ消毒)

マッチ箱と呼ばれるオフィスステーション(ディップ)

マッチ箱と呼ばれるオフィスステーション(ディップ)

コラボレーションエリア(マネックスグループ)

コラボレーションエリア(マネックスグループ)

ブランディングイメージとなる「芝生のある公園」(リジョブ)

ブランディングイメージとなる「芝生のある公園」(リジョブ)


一方で、使用面積の縮小を理由としたオフィス移転もあった。

「エールフランス航空/KLMオランダ航空」は、以前から行なっていたチケットカウンター業務の廃止に伴ってスペースの有効利用を目的としたオフィス移転を実施した。旧オフィスは会議室が十分に用意されていなかったこともあり、移転をオフィス改善のいい機会と捉えたという。全体のスペースを縮小しながら、オフィス中央には、自然発生的に社員同士のマグネット効果を生むカフェスペースをつくるなど、「社員同士のインターアクションが自然にできる空間」を構築している。

マグネット効果を生み出すカフェスペース(エールフランス航空 / KLMオランダ航空)

マグネット効果を生み出すカフェスペース(エールフランス航空 / KLMオランダ航空)

設備の改善を目的に移転。新機能を追加した事例

電力幹線システム、OAフロア、屋上緑化の分野でトップクラスの技術を開発している「共同カイテック株式会社」は、築年数の経過した自社ビル1棟から設備の整ったオフィスビルに移転を決めた例となる。もともと手狭さによって設けた分室が業務効率を悪化させており、オフィス移転は数年前から経営課題の一つであった。それに加えて、頻繁に発生する空調や配管などの修繕が目立ってきたこともあり、移転計画が本格化した。旧オフィスビルでは、各階のフロアごとに事業部が入居していたが、新オフィスではワンフロアに事業部を集約。オフィス中央にリフレッシュルームを配置するなど、社員同士のコミュニケーションを大幅に向上させている。

重電機を中心に貿易商社として50年近い歴史を持つ「キクデンインターナショナル株式会社」はお客様の満足度を高めるために事業を集約した。今までは工場と事務所を一体とするため広さを求めていたが、工場を手放したことで新オフィスは設備や交通の便を優先した。同時に今まで抱えていた経営課題を解消。「働きやすい環境」の構築に成功した。

移転を転機にロゴマークやホームページなども大幅にリニューアル。そうして業界の堅いイメージを払拭し、オフィスだけでなく会社としても理想的なイメージアップができたという。

共同カイテック_リフレッシュイルーム

中央に配置したリフレッシュルーム(共同カイテック)

キクデンインターナショナル_エントランス

ブランディングを意識したエントランス(キクデンインターナショナル)

今後は企業ブランディングを意識したオフィス移転も

日本における建設コンサルティング・エンジニア企業の草分け的存在である「パシフィックコンサルタンツ株式会社」の新しい移転先の条件は「立地」「コスト」「BCP」「設備」「フロア形状」の5項目。特に部門間強化を図る上で分散拠点が統合可能な「立地」が最優先課題となった。

最新の免震構造を備えたオフィスビルに決定後、従業員からの意見や要望を吸上げた。その結果、新オフィスでは新たなコミュニケーションやつながりを意識した多くの機能が新設されている。例えば交流スペースとして設けた「Patio」。ここでは偶発的なコミュニケーションを演出する仕掛けが施されている。窓際には気軽に打合せができる共用スペース。机の配置自体も役職者が入口側に座る「コミュニケーション型組織レイアウト」に改められた。

同社では、ちょうどCI戦略を行う時期と重なったことも有り、建設コンサルタントのリーディングカンパニーとしての企業ブランディングを意識したオフィス構築ができたという。

「株式会社ガイアックス」もブランディングを意識したオフィス移転であった。ソーシャルメディアの構築・運営を主業務としている同社では、旧オフィスでのキャパシティオーバーを理由に移転を計画。「ガイアックスらしさ」やコーポレート・ブランディングを考えたときに、何も無い大空間に自由にオフィスをデザインすることを決意する。オフィスビル1棟を借り、同社が考えるシェアリングが体現できる共有コミュニティ「永田町グリッド」を完成させた。

そして同社が提言しているコワーキングスペースやフリースペース、キッズルーム、イベントスペースなど、多くのシェアリングを実現する場となるファシリティが随所に盛り込まれたオフィスを構築している。

パシフィックコンサルタンツ_Patio

交流スペースとして設けられた「Patio」(パシフィックコンサルタンツ)

ガイアックス_シェアリングが体現できるスペース

シェアリングが体現できるコミュニティスペース(ガイアックス)

オフィス床総面積66,000平米と、ビルの規模こそ違うがビル1棟を借りた例は「楽天株式会社」も同様となる。インターネットサービスを中心に、グローバルな事業展開を行っている楽天は、M&Aや業務拡張を繰り返す中で起きる人員増に対して、本社近隣に分室を設けて対応してきた。しかしその施策も限界となり、「1棟借り」をキーワードに移転先を探す。結果としてビル全体のゾーニング計画から参加できることもあり、当時建築中であった二子玉川の大規模オフィスビルへ入居を決めた。オフィス内も「個々の能力を最大限発揮できる環境」を用意し、福利厚生施設もさらにバージョンアップさせている。オフィスコンセプトの根底にあるのは「一つ屋根の下にみんなが集まれる場所」。特に、750席を用意した2つのカフェテリアは、多くの福利厚生施設の中でも最も重要視しているという。

「株式会社TBM」も企業理念をそのまま形にしたオフィス構築例の一つだ。新オフィスは銀座中央通沿いの一等地に立地する。銀座の持つブランド力に魅力を感じて自社の事業展開への期待を重ねたという。同社は石灰石を主成分とした新素材「LIMEX(ライメックス)」の開発・製造・販売が事業内容となる。

オフィスの内装デザインもブランディングにこだわったつくりとした。オフィスの起点となるエントランスには、同社を象徴する石灰石でつくったピラミッドを配置。ガラスの壁を使用した会議室はそれぞれ現在・過去・未来をテーマにしたデザインに。天井と床には時を刻む年表を象徴した白いストライプ。巻物のような曲面の壁と組み合わせて同社の軌跡を表現させた。

今後も業種を問わず経営と結びついたオフィスが構築されていく。本コーナーでも引き続き、移転理由、目的、課題、オフィスコンセプトなどを分かりやすく伝えていきたいと思う。

楽天株式会社_カフェテリア

750席を用意したカフェテリア(楽天)

株式会社TBM_エントランス

同社を象徴する石灰石を使ったエントランス(TBM)